2025年1月 5日 (日)

教職員諮問 開放制原則も「根本」から疑え

 昨年12月25日の中央教育審議会総会に諮問された2本目は「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」。諮問文だけでは分かりにくいが、要するに教員養成・採用・研修の一体的改革だ。それ自体は不可欠であり、歓迎したい。しかし評価できるのは、学習指導要領の改訂と併せて諮問したということだけである。

 諮問文の分かりにくさ自体が、現下の教員改革の混迷を示していよう。諮問理由も、二つの点で前提が間違っている気がしてならない。

 一つ目は、「令和4年答申で示された改革の方向性にのっとり」としている点だ。新型コロナウイルス禍を踏まえた初等中等教育の在り方を提言した2021(令和3)年1月の「令和答申」を起点とするのは、まだいい。しかし教員免許更新制の廃止を契機とした22(同4)年12月の答申、さらには教員給与特別措置法(給特法)の扱いが注目された24(同6)年8月の答申という流れを示した上で「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」を求めた22年答申に立ち戻るという論理構成を取っている。

 そもそも22年答申自体が更新制の「発展的解消」という、いびつな前提でまとめられたものだ。その上、中途半端に進行中だった「学校の働き方改革」や定義が不十分な「教師不足」の課題もごったにして▽「新たな教師の学びの姿」の実現▽多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成――という2題話を一体にして提言した。提言自体が混迷していたのだから、「改革が現在進行中」(諮問概要)なのも当然だ。

 今も無謬(むびゅう)性の原則を維持する行政の悪癖が出た、と言うべきだろう。改めてこれまでの教員改革が間違っていた、あるいは不十分であったことを認めるところから出発すべきだ。

 もう一つの「前提」にも、あえて苦言を呈したい、諮問理由の本文を読むと、先の3答申の流れに続けて▽大学における教員養成▽開放制の教員養成――という二つの原則が今も「積極的な意義を有している」と評価している。前者は、まだいい。大学院も含めた「大学」での養成原則は、今後も堅持すべきだ。ただ、現下の教員不足は開放制原則の揺らぎであるという現状認識に欠けている。

 諮問理由では「より多くの学生が教員免許の取得を目指したり、教職生涯を通じて能力向上への意欲を喚起したりするような教員免許制度の在り方」を求めている。ここには二つの矛盾した要求が混在していることを、どこまで認識しているのだろうか。

 広く免許取得を促すということは、日本教育新聞が12月2日付1面トップでスクープしたように「教職単位、大幅削減を検討」するということだろう。当然、免許保持者の質は低下する。そうなれば採用決定段階から「教職生涯を通じて能力向上」する方策とセットでなければ、必然的に初任者の質が低いまま教壇に立たせることになる。「意欲を喚起」などという悠長な話ではない。

 そんな中に「多様な専門性や背景を有する社会人等が教職へ参入しやすくなるような制度」を求めているのは、いまだに教職に幻想を抱いている社会人に対する詐欺だと言ったら言い過ぎだろうか。理想と現実の矛盾に「素人」を巻き込んだところで、質の高い教職員集団など形成できようもない。

 開放制原則を堅持するのはいいとして、まずは社会人も含めて「多様」な学び手を厳しく選抜して教職課程の受講を優遇するところから全ての改革が始まろう。教育委員会は教職課程にも参画し、免許取得後は無試験で採用する。給費制を採るのも一考だ。さらに採用後の研修も、職務とは別に十分保障される必要がある。教職大学院にてこ入れしたいなら、「教職生涯」の中で必修化すればいい。そこまでしてこそ、一体的改革の名に値しよう。

 「教職員集団」にも、課題が山積している。スクールカウンセラー(SC)  の雇い止めや、学校司書の会計年度任用が常態化するなど雇用が不安定な状況で「チーム学校」の質を上げることなどできない。そもそも立ち返って反省すべきは、前回改訂(現行指導要領)審議中に出された15年12月の答申ではないか。

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2025年1月 3日 (金)

指導要領の改訂審議スタート〈下〉 「道半ば」より「未完成」から

 学習指導要領の改訂諮問は「世界に冠たる我が国の初等中等教育は、質の高い教師の努力と熱意に支えられ、大きな成果を上げ続けています」とする一方で「全体としては、現行学習指導要領の理念や趣旨の浸透は道半ばです」との認識を示している。

 本当に「浸透」の問題なのか。むしろ前回改訂(現行指導要領)が「ゆとり教育批判」を恐れるあまり、中途半端になってしまったと捉えるべきだろう。

 典型が、資質・能力だ。前回改訂の準備作業を担った「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)論点整理は「主体性・自律性に関わる力」「対人関係能力」「課題解決力」「学びに向かう力」「情報活用能力」「グローバル化に対応する力」「持続可能な社会づくりに関わる実践力」などを重視するよう求め、教育目標・内容も▽教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの▽教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)▽教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの――で整理するよう求めた。

 しかし実際に打ち出された資質・能力の三つの柱は、学力の3要素に「寄せた」ものだった。そのため、学力観の「転換」にも気付かれにくかった。汎用的スキルは「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられるなど、安彦検討会の論点整理はつまみ食いされた格好だ。

 しかも「教育内容の削減は行わない」という方針を早々に確定し、内容の一つ一つを三つの柱に分けて位置付けたため指導要領は肥大化した。「初任者にも分かるように説明した」というが、むしろベテランでも扱いづらいものになったと反省すべきだろう。結果的にカリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)を助長し、多忙化の一因ともなったことも否めない。

 そもそも諮問で「分かりやすく、使いやすい学習指導要領の在り方」を検討するよう求めているということは、現行指導要領が分かりにくく、使いにくいことを認めているに等しい。それを「浸透」の問題として現場に転化するのは、「解像度」を上げるとした学校の働き方改革と同じで無責任のそしりを免れない。

 「一度の改訂では、やり切れないこともある」――。現行指導要領の評価を巡って、複数の教育課程関係者から聞いた言葉だ。しかし10年に一度でさえ長すぎるのに、20年かけては時代の進展に取り残される。何より不幸なのは、不完全なカリキュラムで教育を受けた子どもたちだ。改訂スパンが長いのなら、途中でも現場が自走できる教育課程の基準を模索すべきである。

 2025年は、昭和100年に当たる。国際的な混迷状況は、まさに「戦間期」の様相を呈している。技術の進展は「生成AIが飛躍的に発展する状況」さえ超えていくかもしれない。少なくとも現下の「デジタル化の負の側面」は、社会全体の危機ともなっている。

 文字通りVUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)の時代を生きる子どもたちに、どのような資質・能力を身に付けさせる必要があるのか。そのための授業や教育環境は、どうあるべきか。時に理想の教育の阻害要因ともなる受験態勢は、今のままでいいのか。そして、それを実現するための教育条件整備はどうあるべきか――。これらの課題を徹底検証した上で、最良の指導要領を完成するよう腐心して初めて「『令和の日本型学校教育』を持続可能な形で継承・発展させること」につながろう。

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2025年1月 2日 (木)

指導要領の改訂審議スタート〈中〉 知識見直しの「地雷」を正々堂々と問え


 授業時間の削減には踏み込まなかった。これで教員の負担が減らせるのか―。先月25日の中教審諮問は一般に、そんな疑念を持って受け止められている。日刊紙報道だけ読めば、当然そうなる。

 教育関係者なら諮問理由自体を読めば、重要な一文に気付くだろう。「個別の知識の集積に止まらない概念としての習得や深い意味理解を促す」という部分だ。

 審議の「資料」である「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(いわゆる天笠検討会)論点整理の「個別的知識及び技能と概念的知識・方略の関係性をより整理すべき」だという指摘を思い起こそう。ここでは個別的知識・技能と概念的知識・方略を、明確に分けている。

 個別的知識は身に付けさえすれば自在に活用できる「転移可能」な知識になるとは限らず、概念的知識にまで高めることが不可欠だ。というより概念的知識こそ重視すべきであり、極論すれば個別的知識は「イグザンプル(例)」(奈須正裕・上智大学教授)にすぎなくなる。

 さらに続く「各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化」にも注目する必要がある。目標・内容を、概念を中心にして構造化するというのだから。

 しかも、それが「カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)」を解消し「余白」をも生み出す決定打になると言ったらどうだろう。さらには「教科書の内容や分量」の精選にも関連してこよう。そうなると授業の在り方は根本的に見直さざるを得なくなるし、児童生徒にとって「知識」丸覚えの勉強は通用しなくなる。

 もっとも概念は「見方・考え方」を敷衍(ふえん)したものと位置付けられるだろうから、現行指導要領とそう大きくは変わらないと受け止められるかもしれない。

 現行学習指導要領も「学力」から「資質・能力」へと、学力観の大きな転換を図ったはずだった。ただし三つがあまりにも似ていた、というより資質・能力の三つの柱を学力の3要素に「寄せた」ため、現場にはそういう印象が薄かった。というより2016年答申当時、文部科学省自身が「ゆとり教育批判」の再燃を恐れて「転換」という印象を与えないよう腐心した形跡さえあった。

 今回も、慎重な言い回しが目立つ。しかしイノベーション(革新)が求められる現在、今さら「イソップの言葉」でもあるまい。仕掛けた地雷が暴発して炎上する前に「生成AIが飛躍的に発展する状況の下」での知識の在り方を、正々堂々と世に問うべきだ。

 本社は『英語教育』(大修館書店)1月号の第1特集「次のカリキュラム(学習指導要領)に望むこと 先取りパブリック・コメント」への配信記事で「死んだ『知識』より、使える『概念』を」というキャッチフレーズを提案した。「死んだ知識より、生かせる概念を」の方がよかったかもしれない。

 三つの柱と「学習の基盤となる資質・能力」の関係も、見直すべきだ。もっと後者に移行して充実させ、前者をスリム化するべきだろう。要するに、前回改訂時の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)論点整理の考え方に立ち戻ることである。

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2025年1月 1日 (水)

指導要領の改訂審議スタート〈上〉 超「資料」基に現場参画で徹底議論を

 昨年12月25日に開催された中央教育審議会総会に、中国出張中だった阿部俊子・文部科学相の臨時代理「国務大臣 中根順子」(三原じゅん子・こども家庭相)名で2本の諮問があった。教育課程の基準の在り方▽「質の高い教職員集団」形成の方策――だが、前者の諮問理由の最後にある「教育課程の実施に必要となる条件整備」も数えれば実質3本だ。

 2025年から、学習指導要領の改訂をはじめとした初等中等教育改革の大論議が本格化しよう。教育現場も、この機会を逃してはならない。

 開会と同時に公開された諮問理由文を一読して、驚いた。「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(いわゆる天笠検討会)論点整理の内容が、想像以上に反映されていたことだ。これはもう「資料」の域を超えている。

 同検討会委員の多くが「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」(学校教育特別部会)をはじめとした中教審の部会等と共通していることは、論点整理が指摘する通りだ。これら会議体は、委員という個人単位で認識を共有してきた。

 裏を返せば、政策的には必ずしも整合性が取られていないということでもある。しかも9月の天笠検討会論点整理にせよ12月24日付で正式決定した学校教育特別部会「義務教育の在り方ワーキンググループ(WG)」審議まとめにせよ、年末諮問のスケジュールに間に合わせるため急いでまとめた感がある。要するに、生煮えだ。

 もちろん一部の主要委員にとって、次期改訂の布石となる必要な提言は盛り込めたに違いない。どういうことかは今後、審議が進むにつれ明らかとなろう。その点が、前回改訂(現行指導要領)とは違う。

 ただ一部報道で授業時間の「5分短縮」ばかりがクローズアップされるように、諮問の真意が必ずしも正しく理解されているとは限らない。一方で、なかなか気付かれにくい「地雷」も仕掛けられている。

 どちらにしても現場による諮問の「主体的」読みがなければ、改訂論議に建設的な参画などできない。本気で「教育課程の実施に伴う負担」を軽減させたいと思うなら、なおさらだ。

 諮問に先立つ24日、子どもに意見を聞いて改訂に反映させる方針を出張前の阿部文科相が表明した。それ自体は結構な話だし、子どもを主語にするという既定路線とも整合する。ただ、それ以上に現場の声を聴くことも重要である。

 今回の諮問は、ある意味で未完成だった現行指導要領の欠点を補うための総ざらいという側面も持っている。だからこそ現場の参画による徹底した議論と納得感の下、答申と改訂告示にこぎつけたい。そのプロセスを踏むことも、今回改訂の大きな特色となろう。

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2024年12月28日 (土)

【池上鐘音】指導要領と鉄砲

▼「世界一幸せな国」が舞台の映画にしては、物騒なタイトルだ。『お坊さまと鉄砲』(パオ・チョニン・ドルジ監督)は前ブータン国王が譲位する2006年、標高3100㍍のウラ村で民主化準備のため行われる模擬選挙を描いたフィクションだ▼冒頭、村の高僧が理由も告げず若い僧に銃2丁の入手を命じる。そこに、南北戦争時代のライフルがウラ村にあると聞きつけた米国のコレクターが都会の者に案内されてやって来た▼選挙を巡る村人や家族の対立に魔訶(まか)不思議な銃取り引き、担当役人と村人との珍妙なやり取り。すれ違いが重なる中、仏塔の下で模擬選と法要の日がやって来る▼法要の最中、役人は初めて見た米国人と民主主義について語りたがった。憲法修正2条で銃保持が保障された国だとも知らずに。人の好さそうなコレクター氏が生返事を返し続けていると、選挙結果と銃の使い道が明らかになる――▼前に見た『シビル・ウォー』(アレックス・ガーランド監督)には、フィクションの内戦にウクライナやガザなど現実の戦乱がすっぽりはまったような不気味さに戦慄(せんりつ)を覚えた。『お坊さま―』はあらゆる意味で、これと対極にある▼中教審では25日、学習指導要領の改訂が諮問された。「2040年代」の日本と世界は、どうなっているだろう。第4次教育振興基本計画で打ち出した「日本社会に根差したウェルビーイング」なるものは、果たして世界に受け入れられ広がっているのか▼ブータン憲法9条2項に掲げられているのが、有名な国民総幸福量 (GNH)である。ここでの幸福はHappinessだが、仏教国として精神面が重視される。翻ってわが憲法の同条項は、風前のともしびにある▼年が明ければ銃の国では、選挙中に銃撃されたトランプ前大統領が返り咲く。民主主義と平和主義が、いっそう揺らぐことは確かだろう。せめて「三毒」を克服する知恵を得られるような指導要領になるよう、映画の結末のように願ってやまない年の瀬である。

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2024年12月14日 (土)

「天笠検討会」論点整理(7止) 中教審は条件整備含め徹底改革を

 中央教育審議会の総会が、25日に開催されることが発表された。諮問は▽初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について▽多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について――の2本だという。前者が次期学習指導要領の改訂であることは言うまでもないし、後者は2日付の日本教育新聞が1面トップで「教職単位、大幅削減を検討」とスクープしたものだ。

 実際に諮問文を見てみないと何とも言えないが、現段階では期待と不安が混在している。指導要領改訂とセットで「教員養成・採用・研修の抜本的な見直しに着手する」(同記事)こと自体は評価できるものの、肝心の「条件整備」が諮問の柱に立っていないからだ。

 次期改訂に陰で影響力を及ぼしているのが、2022年6月の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」だ。そこでは3本のうち政策1だけでも①教育課程の在り方の見直し②教員免許制度・教員養成改革③学校の役割、教職員配置や勤務の在り方の見直し④子どもの状況に応じた多様な学びの場の確保⑤探究的な学びの成果などを測るための新たな評価手法の開発⑥最先端テクノロジーを駆使した地方における新たな学び方のモデルを創出⑦デジタル・シチズンシップ教育の推進のためのカリキュラム等の開発⑧「教育データ利活用ロードマップ」に基づく施策の推進⑨教育支出の在り方の検討⑩子どもや学びの多様化に柔軟に対応できる学校環境への転換――を挙げている。

 ④や⑧など、既に進行しているものも少なくない。①と密接に絡むものもある。そもそも①③④⑨は、政策パッケージへの「応答」として中教審に設置された「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」(学校教育特別部会)の検討範囲となっていた。

 ①は前回改訂(現行指導要領)と同様、別に「天笠検討会」を置いて検討することになる。それも事実上、特別部会の義務教育ワーキンググループ(WG)と両輪になっていた。

 改めて気になることがある。義務WGは11月28日、約1年ぶりに会合を開催し審議まとめ案を大筋で了承した。審議もしていないのに「審議まとめ」というのも妙な話だが、一応は10月に親部会委員も含めた15人で広島県内3カ所を視察して寄せられた意見などを中間まとめに反映させたという。拙速の感は拭えないが、指導要領の改訂諮問に間に合わせるためと考えるなら理解できなくもない。

 更にさかのぼると、天笠検討会の論点整理自体も8月の会合で論点整理の「骨子案」を示したかと思うと次回会合で論点整理「案」を示して大筋で了承した。しかも「骨子」と同様、箇条書きのままだ。前回の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)と比べると、明らかに個別論点の議論が不足している。

 もちろん中教審の本格審議はこれから始まるのだから、今後詰めればいいという見方もできなくもない。しかしCSTIの提言から2年半の間、たっぷり時間はあったはずだ。しかも今回の諮問は、総選挙の影響で当初の想定より1カ月遅らせざるを得なかった。それでもバタバタとまとめた印象があるのは、どうしたことか。しかも高校WGの審議まとめは年明けになるという。

 学校の働き方改革にみられる通り、現段階では明らかに中途半端なものもある。今度こそ真に初等中等教育の総合的な改革を進めるためには、教育界を挙げて新たな諮問を基にどう審議が進んでいくか注視していく必要がある。教育現場は、今こそエージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)を発揮して改革論議に参画すべき時だ。

 

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2024年11月19日 (火)

教職調整額の財務省案 真の狙いは「10%」だ

 現行4%の教育調整額を文部科学省が13%に引き上げるよう概算要求したのに対し、財務省が条件付きで毎年少しずつ引き上げて10%になる段階で残業代への切り替えを検討するよう提案したことが波紋を広げている。教員給与特別措置法(給特法)廃止を主張する教育関係者は財務省案を一定評価する一方、文部科学省は「見解」を表明し反論。教育関係23団体も緊急声明をまとめ、概算要求の実現を求めた。

 文科省案と財務省案の、どちらが優れているか。そんなふうに考えてはいけない。そもそも「10%」で決着させようとしていることが、財務省の狙いだからだ。

 伏線はあった。総選挙投票前の10月22日にあった財政制度等審議会財政制度分科会の議題は「地方財政」だったが、ここに財務省は10%引き上げで地方に3000億円(義務教育2000億円、公立高校等1000億円)の負担増が見込まれるという総務省の試算を提出した。6月の「骨太の方針2024」が調整額を「10%以上」に引き上げるとしたことを前提に、社会保障分野の歳出改革徹底などによる財源確保を訴えたものだった。

 投票後の11月3日、共同通信が「公立校教員に残業代支給を検討 定額廃止案、勤務時間を反映」という「政府内で浮上した」案の記事を配信。地方紙は翌日の朝刊で一斉に報じたが、全国紙は電子版を含め一切反応しなかった。8日になって数紙が「財務省」案を前打ちし、文教・科学技術を議題の一つとする11日の財政制度分科会を迎えた。

 これは明らかに、未決定の案を一部報道機関にリークして関係者の反応をうかがう「アドバルーン(観測気球)」と呼ばれる手法の典型だ。しかも与野党が「103万円の壁」撤廃論議で揺れているさなかに、である。国の税収減はもちろん、地方からも「たちどころに財政破綻」と悲鳴が上がっていた。

 時間外在校等時間の削減を条件に調整率を引き上げるかどうか毎年判断するという財務省案が示されれば、地方の動揺や教育界の分断再燃だけでなく文科省や教育関係団体は給特法維持を優先して奔走せざるを得なくなる。それこそが、財務省のわなだ。

 そもそも骨太24で25年通常国会への給特法改正法案提出が明記されているのだから、最低でも10%へと一気に引き上げなければ政府の既定方針にもとる。それを財務省も重々承知しているからこそ10月の分科会では負担増に備えるよう地方に呼び掛けたのだろうし、新たな案でも最終的には10%に達することを目指している。

 ところで文科省は見解で「教職員定数等の充実をすることなく、単に学校現場の業務縮減の努力のみをもって学校における働き方改革を進めようとする提案は、学校現場への支援が欠如」と、財務省案を批判した。いったい、どの口が言うのか。「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階から、解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階に移行すべき」(8月の中教審)と現場の努力に委ねたのは、他ならぬ文科省自身ではないか。

 要するに文科省の弱点を突いたのが、財務省案だった。さすが役所の格が違う、と妙な感心をしてしまう。10~13%のどこで決着するかが、予算折衝の見どころである。

 ただ注意したいのは、これで改革を終わらせてはならないということだ。学習指導要領の次期改訂と連動させた、定数算定の抜本的見直し論議を急ぐ必要がある。財務省に産休・育休代替講師を「正規も対象にしてはどうか」と提案されるようでは、情けない。

 

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教育課程と条件整備の「一体改革」は
2年以上も前に布石が打たれていた!
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2024年11月 9日 (土)

【池上鐘音】蝶の羽ばたき

▼バタフライ効果とは、チョウの羽ばたきのような微細な動きが気象変動など予測もしない大きな変化をもたらすことを意味する。NHK『映像の世紀 バタフライエフェクト』は1995年に放送開始した「映像の世紀」の新シリーズで「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」という観点から国内外のアーカイブス映像を編集したという▼予測しない結果を引き起こした最近の例といえば、安倍晋三元首相の銃撃死事件だ。犯人は旧統一教会の「宗教2世」だったが、世間の非難は自民党との癒着に及んだ。さらに裏金問題の発覚で、安倍派をはじめとした自民党有力派閥の解体に進んだ▼しかし安泰とみられた岸田文雄首相は、総裁選に不出馬を余儀なくされた。混戦を勝ち抜いたのは石破茂氏だったが、首相就任直後の解散で惨敗。立憲民主党でも日本維新の会でもなく少数野党の国民民主党がキャスチングボート握るなどと、誰が想像したろうか▼教育界も無縁ではない。旧統一教会の解散命令問題で、合田哲雄・文化庁次長の人事が2年以上も足止めを食らっている。もうすぐ次期学習指導要領の改訂諮問が見込まれているのに、次も中途半端な教育課程改革になってしまったとしたら大変な損失になる。もっとも、まだそこまで風は及んでいない▼これに対して安倍元首相の盟友だったトランプ前米大統領は選挙演説中に銃撃され、民主党候補がの現職のバイデン大統領からハリス副大統領に交代した。形勢逆転かと思いきや、投票が始まるや予想に反して早々に「またトラ」が決まった▼現段階でも想定できるのは、これから世界は一層の混迷を深めるということだろう。米国第一主義のトランプ政権で、ウクライナ侵攻やガザ虐殺攻撃が好転するとは思えない。日本も台湾危機を唱えて自衛隊の強化と「自由で開かれたインド太平洋」による中国包囲網の形成のにいそしんでいるが、その始まりは安倍首相時代だった▼8日の朝日新聞朝刊1面肩に「教員給与改善 財務省案」が載っていたが、それは別に論じよう。その下にある米大統領選を巡る記事で、佐藤武嗣編集委員が引く米国際政治学者イアン・ブレマー氏の言葉にはっとした▼「米国が歴史的に抱いてきた価値観は、もはや当てにできない。日本はそうした環境に備えなければならない」――。敷衍(ふえん)すれば、戦後民主主義以来の価値観も揺らぐのではないか。憲法=教育基本法体制をよりどころにしてきた戦後教育も、もちろん無縁ではない▼世界中で価値観がぶつかり合う時代に将来を担う一人一人の子どもがどう向き合い、エージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)を発揮するための資質・能力をどう育むのか。次期改訂論議でも、大きな危機意識を抱くべきだろう。さて、チョウはどこに連鎖を起こすのか。

 

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2024年11月 5日 (火)

【内側追抜】超要約・某国大統領選

某候補「お前の母ちゃん出~べそ!」

某候補「くるくるパー!」

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2024年11月 3日 (日)

「天笠検討会」論点整理(6) 教職員定数の抜本的改善論議も急げ

 天笠検討会の論点整理には「資質・能力を育成するための教育課程の改善・充実と教職員定数の改善をはじめとする教育条件整備は一体的に行っていく必要がある」との一文が盛り込まれた。中央教育審議会に学習指導要領の改訂を諮問する際には、一体論議も加速する必要がある。

 先ごろ公表された文部科学省の2023年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(問題行動等調査)では、ポストコロナ下で深刻化する実態が改めて浮かび上がった。不登校は伸びが鈍化したとはいえ前年度に比べ約16%増え34万人を軽く突破し、いじめの認知件数はともかく「重大事態」は約42%増の1306件と4桁時代に突入した。

 不登校を巡っては今後、児童生徒が学校外で学習した成果の評価も一層求められる。いじめがいったん重大事態に認定されると、教育委員会はもとより学校現場にも過重な負担が掛かることは言うまでもない。もちろん子ども本位に考えれば、一刻もおろそかにできない対応ではある。

 改めて総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)「政策パッケージ」が提起した「教室の中にある多様性」の図を思い起こそう。文科省の更新資料で中学校の状況を見ると、40人学級の中に平均で▽不登校2.4人、不登校傾向4.1人▽学習面・行動面で著しい困難を示す子2.2人▽家で日本語をあまり話さない子1.3人▽家にある本が少ない子(経済格差)13.9人――と、既に深刻な事態に置かれている。しかも、23年度調査結果の反映前だ。

 各地の25年度公立学校教員採用選考にも、あまりいいニュースは聞かれない。新採教員の質低下だけでなく、臨時任用要員の更なる枯渇で「教師不足」にも拍車がかかろう。産休・育休や病休の増加も相まって、定数さえ充足できない状況が常態化している。

 もう現場の過重負担は、耐えられないほどの状態であることを認識する必要がある。働き方改革も、のんきに「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階から、解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階に移行すべき」(8月の中教審答申)などと言っていていいのか。

 その上に論点整理が提案した教育課程改革の方向性を次期指導要領で進めようとするなら、従来の発想を抜本的に転換した定数改善の検討が不可欠になろう。少なくとも学級数を算定基礎にすることには、限界が来ている。そもそも指導の個別化・学習の個性化を学習者視点から整理したのが「個別最適な学び」だとするなら、チーム・ティーチング(TT)が基本になるべきなのが道理だ。

 1人1台端末が普及した分、学級担任1人でも指導の個別化や学習の個性化は補えるとの考え方はあろう。しかし先の教室における深刻な実態をみると、むしろ一人一人を丁寧に見取って対応する必要性は高まっている。

 そもそも日本の教育は、学級定員の多さにもかかわらず「生徒の学習到達度調査」(PISA)で好成績を示す「生産性の高い国」であると経済協力開発機構(OECD)は評価している。深刻な事態が進行する中でこれ以上の生産性向上、労働強化を求めようというのか。教職調整額の引き上げをはじめとする処遇改善は「環境」整備にはなっても、課題の解決策にはならない。

 カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)と教師のワーク・オーバーロードは別問題だという論点整理の認識はその通りだが、カリキュラムを高度化するには教師の質向上が欠かせない。そのためにも次期指導要領の全面実施までに、従来の発想を脱した新しい定数を実現すべく検討を急ぐべきである。養成・採用・研修の在り方も根本的に見直すべきだが、それはまた別に論じよう。

 

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