文部科学省が「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」を設置し、22日に初会合を開催した。いよいよ学習指導要領の「次期改訂」に向けた議論が始まる。もっとも会合では、次期改訂のジの字も出なかった。だから日刊紙の報道は一切なかったし、事情が分かっているはずの専門紙も淡々と伝えただけだった。
既視感を抱くのは、2012年12月の政権交代前夜に設置された「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(座長=安彦忠彦・名古屋大学名誉教授)だ。当時は本社以外に記事化するところが一切なかったが、現行指導要領が実質的にコンピテンシー(資質・能力)ベースへとかじを切る学問的根拠を固めた「安彦検討会」の意義は強調してもし過ぎることはない。もっとも2年後の中央教育審議会への改訂諮問ではアクティブ・ラーニング(AL、当時は「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」)ばかりが注目され、なかなか「学力」観の転換に気付く人は少なかった。
今回の検討会は安彦検討会でも委員を務めた天笠茂・千葉大学名誉教授が最初から座長に指名されていたから「天笠検討会」と呼ぶべきだが、本社では座長代理の一人で「令和の日本型教育」答申関係でも教育課程論議をリードしてきた奈須正裕・上智大学教授の名も冠して「天笠・奈須検討会」と呼びたい。
象徴的なのが、天笠・奈須検討会の2日前に発足した「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」だ。一見すると「魅力向上」が主眼のようにも見えるが、実際には給特法(教職給与特別法)の見直しを含めた「質の高い教師の確保」策の検討を目的としている。
これらは決して、バラバラな課題への対応ではない。両者をつなぐのが、10月に義務教育・高校教育の二つのワーキンググループ(WG)設置を決めた中教審初等中等教育分科会「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」(学校教育特別部会)である。
同部会は、政府重要会議の一つである内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に設置された「教育・人材育成WG」の中間まとめ(21年12月)に対する応答として、1月に設置が決まった。「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」は6月のCSTI本会議で決定されているから、27年見込みとされる次期改訂が政府方針になったことを意味しよう。
政策パッケージでは次期改訂も教員勤務の見直しも、学校教育特別部会の検討事項とされていた。初等中等教育局長の私的懇談会形式を挟んだとはいえ、いずれは中教審マターとなるべき課題である。
内閣府審議官としてCSTIのWGを仕掛けたのは、2度の指導要領改訂に携わった合田哲雄・現文化庁次長である。財務課長として教職員定数や「学校の働き方改革」を手掛けた身として、トータルな政策展開なしには山積する課題を打開できないと痛感したようだ。西山圭太・元経済産業省商務情報政策局長の「DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタルによる変革)の思考法」に心酔するのも、そのためだろう。
だからこそ審議の舞台が文科省=中教審に戻った今こそ、教育現場から声を上げなければいけない。そうでなければ、政界や国民世論の顔色をうかがいながらの政策決定を余儀なくされている文科官僚による中途半端な改革にとどまらざるを得ない恐れさえある。
典型的なのが、同じ週の19日に答申された「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~『新たな教師の学びの姿』の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~」だ。教員免許更新制の廃止は結構だが、それに代わる研修履歴記録システムと教員研修プラットフォームによる受講奨励は下手をすると働き方改革に逆行しかねない。
不登校や発達障害・特異な才能、外国ルーツの子どもなどの多様性・包摂性に対応するためにも、また1000兆円もの国の借金を背負わせてしまった次世代を担う子どもたちに課題発見・解決能力を身に付けてもらうためにも、教育課程改革を含めた教育大改革は進めなければならない。ただし、それも学校や教員の持続可能性あっての話である。「日本型教師」に信頼を置いた改革を願ったからこそ、本社は10月にジダイ社から『学習指導要領「次期改訂」をどうする ―検証 教育課程改革―』を刊行した。今後も現場へのエールを込めつつ、配信記事で中教審などの動向を報じていきたい。

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