教職員諮問 開放制原則も「根本」から疑え
昨年12月25日の中央教育審議会総会に諮問された2本目は「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」。諮問文だけでは分かりにくいが、要するに教員養成・採用・研修の一体的改革だ。それ自体は不可欠であり、歓迎したい。しかし評価できるのは、学習指導要領の改訂と併せて諮問したということだけである。
諮問文の分かりにくさ自体が、現下の教員改革の混迷を示していよう。諮問理由も、二つの点で前提が間違っている気がしてならない。
一つ目は、「令和4年答申で示された改革の方向性にのっとり」としている点だ。新型コロナウイルス禍を踏まえた初等中等教育の在り方を提言した2021(令和3)年1月の「令和答申」を起点とするのは、まだいい。しかし教員免許更新制の廃止を契機とした22(同4)年12月の答申、さらには教員給与特別措置法(給特法)の扱いが注目された24(同6)年8月の答申という流れを示した上で「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」を求めた22年答申に立ち戻るという論理構成を取っている。
そもそも22年答申自体が更新制の「発展的解消」という、いびつな前提でまとめられたものだ。その上、中途半端に進行中だった「学校の働き方改革」や定義が不十分な「教師不足」の課題もごったにして▽「新たな教師の学びの姿」の実現▽多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成――という2題話を一体にして提言した。提言自体が混迷していたのだから、「改革が現在進行中」(諮問概要)なのも当然だ。
今も無謬(むびゅう)性の原則を維持する行政の悪癖が出た、と言うべきだろう。改めてこれまでの教員改革が間違っていた、あるいは不十分であったことを認めるところから出発すべきだ。
もう一つの「前提」にも、あえて苦言を呈したい、諮問理由の本文を読むと、先の3答申の流れに続けて▽大学における教員養成▽開放制の教員養成――という二つの原則が今も「積極的な意義を有している」と評価している。前者は、まだいい。大学院も含めた「大学」での養成原則は、今後も堅持すべきだ。ただ、現下の教員不足は開放制原則の揺らぎであるという現状認識に欠けている。
諮問理由では「より多くの学生が教員免許の取得を目指したり、教職生涯を通じて能力向上への意欲を喚起したりするような教員免許制度の在り方」を求めている。ここには二つの矛盾した要求が混在していることを、どこまで認識しているのだろうか。
広く免許取得を促すということは、日本教育新聞が12月2日付1面トップでスクープしたように「教職単位、大幅削減を検討」するということだろう。当然、免許保持者の質は低下する。そうなれば採用決定段階から「教職生涯を通じて能力向上」する方策とセットでなければ、必然的に初任者の質が低いまま教壇に立たせることになる。「意欲を喚起」などという悠長な話ではない。
そんな中に「多様な専門性や背景を有する社会人等が教職へ参入しやすくなるような制度」を求めているのは、いまだに教職に幻想を抱いている社会人に対する詐欺だと言ったら言い過ぎだろうか。理想と現実の矛盾に「素人」を巻き込んだところで、質の高い教職員集団など形成できようもない。
開放制原則を堅持するのはいいとして、まずは社会人も含めて「多様」な学び手を厳しく選抜して教職課程の受講を優遇するところから全ての改革が始まろう。教育委員会は教職課程にも参画し、免許取得後は無試験で採用する。給費制を採るのも一考だ。さらに採用後の研修も、職務とは別に十分保障される必要がある。教職大学院にてこ入れしたいなら、「教職生涯」の中で必修化すればいい。そこまでしてこそ、一体的改革の名に値しよう。
「教職員集団」にも、課題が山積している。スクールカウンセラー(SC) の雇い止めや、学校司書の会計年度任用が常態化するなど雇用が不安定な状況で「チーム学校」の質を上げることなどできない。そもそも立ち返って反省すべきは、前回改訂(現行指導要領)審議中に出された15年12月の答申ではないか。
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