指導要領告示 “パブコメ改訂”のルール化を
小・中学校の指導要領が28日、官報で告示された。これに関してマスコミでは、道徳教育の目標に愛国心規定が盛り込まれたことや、音楽で君が代を「歌えるよう」指導すると追加されたことが、大きく取り上げられた。「異例」の修正だと指摘した記事もあるが、これについては、きちんと背景を押さえた上で論じなければなるまい。
別に文部科学省を擁護する義理はないのだが、「良識の範囲内」を旨とする本社としては、以下の2点について批判は当たらないと考える。まず、「異例」であるということ。確かに、これまで一度公表された指導要領案が大幅に修正されることはなかった。しかし今回の改訂が、今までとまったく違っていることがある。2005年6月の改正行政手続法に基づいて、「パブリックコメント」(意見公募)に付されたことだ。しかも、指導要領案の基となった中央教育審議会答申まで、案の段階で任意の意見公募に委ねる念の入れようだった。だから、関係団体の意見しか聴かなかった従来の改訂と比較して「異例」であることは、当然と言えば当然である。
2番目が、愛国心規定についてである。総則の中で道徳教育について「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し」という表現を入れたのは、指摘するまでもなく、改正教育基本法そのままの文言を盛り込んだということである。しかも、「郷土や国を愛する心をもつ」ということは、既に現行指導要領でも第3章・道徳の内容項目に掲げられている。確かに表現上は「強化」であるが、「教基法に書いてあることを入れただけだ。そもそも書いてなくても、学校は法令に従う必要があるのだから同じことだ」と言われれば、内容的にはそれほど目くじらを立てる修正とは言いづらい(なお、教基法の改正条項が妥当であったかどうかについては、「良識の範囲」を超えるのでここでは論じない)。
その上でなお問題があるとすれば、やはり2点ある。第1は、やはり小学校音楽で君が代を「歌えるよう」指導すると修正したことだ。もちろん、これも従来から「国歌『君が代』は、いずれの学年においても指導することと」とある。指導するんだから歌えないように指導することなどありゃあしない、指導するなら歌えるようにすることを目標にするのは当然でしょうに、という説明はあり得る。しかもこの間、国旗・国歌法(1999年8月)まで制定されているのだから、重大な修正ではない、と言えなくはない。
しかし、それによって想定される影響についてはどうか。いくら文科省が「大綱的基準」と抗弁しようが、変更された指導要領の一言一句をしんしゃくして深読みするのが、教育界の常である。問題にならない県では何の問題もなかろうが、日の丸・君が代の実施が焦点化されている都道府県では、この変更点をもって「『歌えるように』しなければならないのだから、卒業式や入学式でも大きな声で歌えるようにしなければならない」と言い出す人たちが出てきても、おかしくない。
本社は既に過去の社説で、日の丸・君が代に関する不毛な対立を廃するよう主張したところである(日の丸・君が代の国旗・国歌としての妥当性についても「良識の範囲内」により論じない)。この修正が、一部都道府県での不毛な対立に油を注ぐのではないかと憂慮するものである。
もっとも、そうした指摘を声高にすることが本社の論旨ではない。考えなければならないのは、そうした影響を与えかねない重大な修正が今後とも文科省の行政判断に任されていいのかどうか、ということである。
もちろん、法的には何の問題もない。学習指導要領は文部科学省令である学校教育法施行規則に基づくものであり、しかも今回はパブコメで一般の意見を聴いた上で告示している。その上、法律上は必要のない中教審答申にまで意見聴取をしたのだから、非の打ちどころはない、はずである。
ただ、今回の修正での第2の問題点は、「意見を出せば、指導要領が変わる」という印象を、一部に与えてしまったことだ。今回は組合系のみならず、「日本教育再生機構」のような団体も“組織的”な意見送付を呼び掛けた。もちろん多い意見の通りに修正されるなどということは実際にあり得ないことではあるが、今後の改訂で“意見合戦”のような事態が起こらないとも限らない。
パブコメ後の成案をどう決めるのか、単に文科省に委ねるのではなく、やはり一度、中教審なり有識者なりの判断を仰ぐべきではないか。といっても、従来から旧教育審議会答申を受けてどういう指導要領にするかは、旧文部省に“白紙委任”されてきた。もっとも審議会有力者の了承は得てのことではあるが、それでも最終的な判断は文科省が行うことは、今も変わっていない。
いずれにしてもパブコメ施行後の指導要領改訂は今回が初めてであり、それが告示までの経緯をめぐる評価の混乱につながったことは確かだ。今回に関しては仕方ないにしても、行政の透明化がいっそう求められる昨今である。そうでなくても指導要領改訂は、国民的関心事でもある。告示までの決定をも透明化するようなルールづくりを、改めて求めたい。
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