【コラム 池上鐘音】執念の調査
▼ある意味、すごい調査である。文部科学省が21日に発表した、「学校図書館の現状に関する調査」「学校図書館図書関係予算措置状況調べ」のことだ。何がすごいかと言って、都道府県はもとより市町村ごとの状況が、こと細かに記載されている。学校図書館にそろえる本の冊数の基準となる「学校図書館図書標準」の達成率を25%刻みで分け、それぞれ何校あるかまで載せているのだから恐れ入る▼統計調査を発表して地方の尻をたたく、というのは、文科省がよくやる手法だ。典型的なものは、かつての日の丸・君が代実施状況調査であった。法制化以前、実施率の低い自治体には大いに効果を発揮した。しかし、これも都道府県・指定都市レベルどまりである。調査が法的に定められた「指定統計」でもないもので、ここまで公表するというのは異例中の異例と言っていい▼子どもにとって本との出会いの場である学校図書館の重要性を否定する人はなかろう。加えて「新しい学力観」や「総合的な学習の時間」の導入を契機に「調べ学習」の重要性は高まっているし、新学習指導要領が求める「活用」および「言語力」を育成するためには、国語の力だけでなく統計や図も含めたデータを読み取り、表現する力が不可欠になる。豊富な図書資料なしには実現しない学習であることも確かである▼しかし、それだけでは文科省の“執念”を説明できない。調査結果にも現れていることであるが、必要な財政措置をしているのに、それがさっぱり各自治体で予算化していない、といういら立ちが、そこには込められている。実際、図書標準の達成率は小・中学校で4割ほどにとどまる。これでは世界トップレベルの学力を目指すことなどできない、とでも言いたげである――といったら、深読みし過ぎであろうか▼学校図書館に関しては「図書整備5か年計画」により、2002~06年度で総額約650億円が計上された。07~11年度には約1000億円に拡充される見通しである。財政事情の厳しい中、これだけ国で措置しているのだから地方もしっかりやってくれなきゃ困る、という言外の主張は、分からなくもない▼しかし、これはあくまで地方財政措置である。自治体に一括して渡される地方交付税は、補助金のように使途が決められているわけではない。必要ないと判断したら予算化しなくても責められることはないはずだ。教育以外の地方自治関係者の中には、顔をしかめる向きも少なくなかろう▼教育財政に関して、文科省は防戦一方だ。義務教育費国庫負担は国の負担率が引き下げられ、増額への起死回生策だったはずの教育振興基本計画は当初からつまづきを見せている。そんな不満のうっ積が八つ当たりとなって地方に向けられた調査だ、というのは、さすがに言い過ぎか▼もっとも、何でも地方任せにすることに対する危機感は、ゆえなしとはしない。教育界では地方交付税が教育以外の費目に使われることの例えとして「橋や道路に化ける」という言葉がよく使われるが、今月16日に東京で開かれた道路特定財源の暫定税率復活を求める総決起大会では、ある首長が「このままでは福祉や教育にしわ寄せが来ざるを得ない」といった趣旨の発言をしていた▼教育問題はどうしても「べき論」や精神論で語られがちだが、公教育はあくまで政策問題として語られるべきものだ。当然、そこには財政の重点化も含めた戦略がなければならないのだが、そうした土壌が国にも地方にも欠けている。そうした意味でもいろいろ考えさせられる調査ではあるのだが、あまりにもマニアックな読み方であることは認めておこう。
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