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2008年8月18日 (月)

全国学テ開示問題 だから任意参加にすべきだ

 鳥取県教委は先週、臨時教育委員会を開き、改めて全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の市町村別・学校別データを開示しないことを決めた。地方紙記者の異議申し立てを受けた県情報公開審議会が一部を除き開示するよう答申し、中永宏樹教育長が開示を主張したにもかかわらずの、非開示決定である。しかし、こうした混乱が起きるのも、同県の問題というより、全国学テの制度設計に伴う必然である。本社が2月20日付社説で主張した通り、全国学テは任意参加に切り替えることを早急に検討すべきである。

 そもそも情報公開をめぐって問題が浮上する可能性は、実施前に一部団体やマスコミから指摘されていた。大阪府枚方市教委が独自に実施する学力テストについて、高裁まで争った末に非公開決定が取り消された事例があったからだ。鳥取県でも裁判に持ち込まれれば、果たして勝訴できるか、おぼつかないと言わざるを得ない。

 国が実施したテスト結果について、都道府県レベルで開示の是非が争われる。こうしたいびつな構造になったのも、全国学テそのもののいびつさに原因がある。

 確かに全国学テ構想の発端は、当時の中山成彬文部科学相が2004年の就任当初に「教育について競争意識を高める」ため教育課程状況調査の結果を都道府県・市町村別に公表する意向を表明したことにある。世間には、いまだにこの文脈で全国学テの意義をとらえている向きもある。

 実際の全国学テは、中央教育審議会の慎重な審議を経て「指導方法の改善に向けた手がかりを得ることが可能となり、子どもたちの学習に還元できる」(2005年10月答申)ものへと位置付けが変質した。中山発言とはうらはらに「学校間の序列化や過度な競争等につながらないような十分な配慮が必要」(同)とされたのは、もちろん1960年代の「学テ闘争」の苦い教訓があったからである。

 もう一つ注意しなければならないのは、全国学テを提言したのが、いわゆる「義務教育の構造改革」答申であったことだ。

 言うまでもなく同答申の最大の狙いは、義務教育費国庫負担制度(義務教)を堅持することにあった。規制緩和・構造改革路線の中にあっても、引き続き国が義務教育に対して応分の責任を持つべきことを主張するために持ち出した論理が、「インプット」(目標設定とその実現のための基盤整備)→「プロセス」(実施過程)→「アウトカム」(教育の結果)という、教育システムへの転換だった。プロセスを市区町村や学校に委ねつつも、アウトカムを国の責任で検証し、教育の質を保証する。そのための具体的な手法が、全国学テであったのだ。

 しかし周知のように、義務教の国庫負担率は政治決断により2分の1から3分の1に引き下げられた。本来なら中教審=文部科学省は「3分の1教育分権」の在り方を再度審議しなければならなかったのに、教育の質保証システムはそのまま残った。全国学テのいびつさは、ここに起因する。

 全国学テの実施に当たって文科省は、個々の市町村名や学校名を明らかにした公表を行わないよう、都道府県教委などに通知している。しかし、通知はあくまで指導・助言の一環であり、しかも国による指導・助言は99年の地方分権一括法により「行うものとする」から「行うことができる」(改正地方教育行政法48条)に変わっている。法的拘束力を持たないことは明らかだ。

 このままでは第二、第三の開示問題が起こりかねない。そして、法廷闘争に持ち込まれて開示判決でも出れば、たとえ確定前でも全国に与える影響は甚大である。

 本社は既に主張したように、全国的な学力テストの意義を否定するものではない。ただしそれは、自治体や学校の主体的な参加により、それぞれの指導改善や教育条件整備に生かすために活用されるべきだ。あえて国の「責任」とまで位置付ける必要はなく、インプットの達成が不十分な責任は市民や保護者に対して直接取るべきものである。

 一連の論議で気になるのは、結果の公開が子どもや学校の競争意識をあおるかどうか、という点に矮小(わいしょう)化されることである。それでは、今の社会の中で「競争も必要」という主張に力を与えかねない。あくまで教育論、指導論として、先手を打つべきである。

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