鈴木恒夫文部科学相は先ごろ、「中長期的な大学教育の在り方について」を中央教育審議会に諮問した。審議事項の一つに「人口減少期における我が国の大学の全体像」が挙がっており、これまでの設置認可行政を転換させる可能性もにじませている。大学側も審議の動向や答申を待つばかりでなく、学生の質の多様化に対応した大胆な「機能分化」に、今から真剣に取り組むべきである。
諮問でまず確認しておきたいのは、「中長期的な」という限定が付いていることだ。役所の用語で「中長期的」とは、短期的でない、すなわち目前の課題にはしないということであり、場合によっては捨て置きたい課題に意図的に使われる場合すらある。ただし今回の場合は明らかに、それだけ時間を掛けて関係者の合意を図っていきたい、という意味を含ませている。諮問理由でも、先に策定された教育振興基本計画に盛り込まれた文言を諮問の根拠としているから、計画期間の2012年度までに一定の方向性が出せればいい、という構えであると読み取れる。
その上で、なぜ今この時期に諮問が行われたかを考える必要がある。中教審では既に「学士課程教育」の審議が進んでいて、内容的には3月の大学分科会制度・教育部会の「審議のまとめ」と大きな変更はなく、後は親審議会のセッティングを待つだけ、と言われていたが、なぜか答申の日取りにめどが付かないままであった。それが、「中長期」の諮問が先に行われたとすれば合点がいく。「審議のまとめ」は現在の大学教育の規模を「過大とは言えない」と明言し、さらなる大学設置の拡大すら容認する姿勢を示していたからだ。
今後どのような方向で議論が進んでいくかは、大学分科会でのフリートーキングや、その下に設置される部会等の動向を見ないと、何とも言えない。また、すぐに方向性を明らかにできるものでもないだろう。しかし、中教審への諮問一般がそうであるように、諮問理由説明を子細に眺めれば、課題は自ずと浮き上がってくる。
審議事項は①社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について②グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について③人口減少期における大学の全体像について――の3本である。これらを一体的に解決するような大学政策を求めているのだ。しかし、大学進学率が50%を超える「ユニバーサル段階」において、国際的な競争力とも両立する質の保証ということは、相当な困難が伴う。
まず考えられるのが、設置認可行政の転換である。これまでは2002年8月の中教審答申に基づき、「事前規制」による原則抑制から「事後チェック」による自由化の方針が取られてきた。そのため同年度をピークに18歳人口の減少が続いているにもかかわらず、大学の数は80校近くも増えている。一部大学では“経営破たん”も現実のものとなりつつある。
これについては既に「審議のまとめ」で「大学間の連携・協同」を打ち出すことで、市場原理一辺倒による「自然淘汰(とうた)」を避けるという事実上の大学政策の軌道修正が図られていた。しかし、それはあくまで設置後の話であって、認可については触れていなかった。今回の諮問理由説明で、③にからめて「人口減少期における状況、充足率の状況等を踏まえた我が国の大学の全体像」の検討を求めたということは、明らかに設置認可時の「自由参入」に歯止めを掛けたい意向が含まれていよう。
しかし、それは過剰な「入り」を抑制するだけであって、減少する18歳人口に見合った大学数の削減につながるものではない。そこで注目されるのが、後に続く「大学の機能別分化の促進と大学間のネットワークの構築」という一文だ。
機能別分化は2005年1月の答申「我が国の高等教育の将来像」(将来像答申)で提言されたもので、各大学が▽世界的研究・教育拠点▽高度専門職業人養成▽幅広い職業人養成▽総合的教養教育▽特定の専門的分野の教育・研究▽地域の生涯学習機会の拠点▽社会貢献機能――といった機能を適宜選択し、大学自体の性質を多様化させることを目指したものだった。
しかし、個別大学がこうした機能別分化を積極的に打ち出したという話は、寡聞にして知らない。実際には従来の偏差値輪切りのランク付けの延長線上で「世界に通用する大学」「面倒見のいい大学」といったキャッチフレーズを付し、大学や学生の現状に沿って力点の置き方を変えているだけであろう。
各大学は、もっと大胆に機能別分化を鮮明に打ち出すべきである。かつての「大学」のイメージが既に維持できないことは、関係者なら心情でよく分かっていることだ。それを「学力低下」批判で逃げているようでは、教育でも何でもないし、現実的でもない。世界に通用する研究者育成をしたいなら、入学定員や学生数の削減をも恐れずに、入学者選抜や単位認定を厳格化をすればいい。地域で生き残りを図りたければ「学力不問」でどんどん学生を受け入れ、代わりに社会で通用するような力を付けさせるべく、古い「高等教育」の概念にとらわれない教育を展開すればよかろう。逆にそれを大学の「売り」にして、新たな学生発掘に打って出るのである。
しかし、それでも現在の765校がそのまま維持できるとは、とても思えない。実際にも私大の半数近くは定員割れを起こしている。諮問理由説明にも「全国レベルと地域レベルのそれぞれの人材育成需要に対応した大学政策の在り方」とある。むしろ各大学が先手を打って「連携・協同」、ありていに言えば再編・統合を検討することが不可避だ。そうでなければ、破たんで放り出される学生を不幸にするだけだろう。
「中長期的」といっても、残された時間は決して長いとは言えない。大学関係者の真剣な対応を求めたいし、中教審=文科省も鮮明な形で大学政策の転換を打ち出すことが不可欠である。

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