学校支援地域本部 教員の負担「軽減」にはならない
文部科学省の新規事業として今年度、「学校支援地域本部」がスタートした。全市町村に地域ボランティアによる「学校の応援団」を広げようというもので、既に495市町村、1520本部の設置が決まったという。8月末から9月始めにかけて、全国6カ所で「キックオフ!研究協議会」も開催された。地域ぐるみで学校教育を支援する仕組みづくりという点では、文句のつけようがない。気になるのは、それが教員の負担を「軽減」するものとして喧伝(けんでん)されていることだ。
学校支援地域本部は、杉並区立和田中学校の「学校支援本部」をモデルにしたと言われる。しかし、事業の狙いや設計は微妙に違っている。文科省の説明によると、事業の目的は、①教育のさらなる拡充(教員や大人が子どもと向き合う時間を拡充)②生涯学習社会の実現(自らの学習成果を子育てに生かす場を拡充)③地域の教育力の向上(地域の活性化)――により「学校・家庭・地域が一体となって地域ぐるみで子どもを育てる体制を整えること」にある。
現在の学校教育を進める上で、地域との連携が不可欠になっていることは論をまたない。近年、生活科や「総合的な学習の時間」、キャリア教育など、地域住民や外部機関などとの連携なしには学習そのものが成り立たない活動が増えている。学習内容と実社会とを結び付けることは、新学習指導要領も求めるところである。既に地域連携自体が学校や教員の本来業務になっている、とすら言っていいだろう。
そうした活動や組織づくりは従来、各学校の創意工夫と教員個人の努力で、ゼロから積み上げられてきた。しかし、熱心な管理職や教員が異動してしまえば雲散霧消しかねないほど、はかないものである。学校支援地域本部事業は、それを継続的なシステムとして構築することを目指している。
また、学校にとって地域の教育力が、てこ入れをしなければ維持できないくらいに低下していることも、また認めなければならないだろう。そのために総額50億円の国費を投入しようというのだから、それ自体は悪いことではない。
学校や教員の役割は、耐え難いほどに肥大化している。もちろん、その中には時代の要請から避けられないものもあるだろう。地域連携も、その一つだ。だからこそ地域にも応分の負担をしてもらうシステムとして、地域本部のような仕組みが求められるだろう。しかし、「連携」業務そのものがゼロになるわけではないことに、注意する必要がある。
最大の問題は、それが教職員定数改善を阻む口実として利用されている向きがあることだ。「教員は忙しい」というけれど、まだまだ無駄は見直せるんじゃないか。業務に関しても、一部を外部に担ってもらうことで負担軽減はまだまだ図れるだろう。教員の数を増やせというなら、徹底的に無駄を省くことが先決だ――と。それが、財務省などの論理である。
もちろん文科省も、それを織り込んで事業を予算化したのだろう。そうであれば3年間の事業終了時に、本当に教員の負担軽減につながったのか、「子どもと向き合う時間」が増えたのか、徹底的に検証してほしい。ちょうど教育振興基本計画の「次の」5年間に向けて、格好の素材を提供するものになろう。
研究協議会の関東甲信越会場(東京)では千葉県野田市教委の「地域教育プラットフォーム事業」が事例として紹介されていた。しかし、その中核事業「サタデースクール」は、文科省が指導要領を突然「最低基準」だと言い出したことで自治体間の教育格差に危機感を抱いた根本崇市長の主導で全国に先駆けて開始したものであることに、思いを致さざるを得ない(時事通信社『内外教育』2002年7月30日付本社配信連載参照)。事業のモデルと目された和田中にしても、「できる子」対策を多忙な教員に担わせるのは酷だとして、支援本部主催による学習塾との連携講座「夜スペ」を始めたのである。
改めて事業の位置づけを確認してみると、あくまで予算は生涯学習振興局に計上されており、所管も社会教育課である。初等中等教育局の予算説明資料には、再掲として「事務の外部化」とある。よもや初中局が生涯局に予算と責任を外部化しただけ、という意味ではあるまいが。
↑ランキングに参加しています。奇特な方はクリックしていただけると、本社が喜びます
| 固定リンク

コメント
できる子対策については、飛び級制度を設ければふさわしいと思うのですが。なぜできないのでしょうかね。先進国で飛び級を設けている国で何か問題でも起きているのでしょうか。
投稿: まえやま | 2008年9月10日 (水) 18時39分
現在でも「飛び入学」制度はありますが、大学、受験者ともに広がっていないのが現状です。飛び級については今後の中教審などの論議を見ないと何とも言えませんが、たとえ制度化されても、強い年齢主義や義務教育制度の確立など歴史的・文化的・社会的背景の違いにより、欧米諸国等のように一般化するとは必ずしも言えないと思います。
投稿: 本社論説 | 2008年9月10日 (水) 20時02分