« 私大地元回帰 今こそ「大学」教育の抜本改革を | トップページ | 【池上鐘音】注意が必要 »

2009年8月 1日 (土)

キャリア・職業教育 中教審報告への賛同と疑問

 中央教育審議会のキャリア教育・職業教育特別部会が、審議経過報告をまとめた。それ自体は半月も前の話だが、7月30日の親審議会(総会)で正式に「報告」されたのだから、ここで取り上げることも許されたい。さて、本社はもとより「社会的・職業的自立に必要な能力等を、義務教育から高等教育に至るまで体系的に身に付けさせていくこと」を訴える報告の趣旨に異論を唱えるものではない。むしろ各学校段階で大いに教育内容の積極的な組み換えが求められよう。しかし、具体論では踏み込み不足の感や疑問も、多々ぬぐえない。

 「キャリア教育」という言葉自体は1999年の中教審答申から使われ、学校現場にも定着しているが、いまだに一部教員を除いて進路指導や職業教育と混同する向きも見られる。答申などによって揺れ動く定義を明確にしようとしたのも、今回の審議経過報告の重要なポイントだ。そして何より、学校教育そのものを社会・職業との関連から見直すよう求めた意義は大きい。これまで「国家・社会の形成者として必要な資質を備えた国民を育成する」という目標を掲げながら、実際には個々の教科等に分断された知識・技能を教えることに力点を置き過ぎ、社会との関連を図ることが希薄だったのは、経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果からも明らかだ。

 以前の社説で論じたように、キャリア教育は本来、今回の学習指導要領改訂の目玉になっていいほどの話である。各学校での新教育課程の検討では、国立教育政策研究所のパンフレットが示すように、キャリア教育の視点で教育活動全体を見直すことが要請されている。

 一歩進めて考えれば、「普通教育中心・座学中心の教育には、職業的自立を促す観点から限界がある」(審議経過報告)というのだから当然、次の指導要領改訂ではこの視点が重要なポイントにならなければならない。場合によっては教科再編も含めた大胆な教育内容の組み直しや指導改善が求められよう。

 審議経過報告では、とりわけ進学校を含めた普通科高校でキャリア教育を充実させる必要性を指摘したことが重要だ。「産業社会と人間」(総合学科の原則履修科目)のような時間を高校の教育課程に位置付けるかどうかは先送りしたが、最初の打ち出しとしては仕方なかろう。答申に向けて、ぜひ前向きな検討を期待したい。

 さて、そうした賛同の意を表しておいた後は、審議経過報告への疑問点である。

 審議経過報告は、高等教育に関して「『職業実践的な教育に特化した枠組み』の整備を検討する必要がある」と提言している。持って回った物言いで一読しても何のことやら分からないだろうが、要するに諮問時の理由説明にあった「新たな高等教育機関の創設」のことである。それが専門学校の学校教育法1条校化を含めた格上げを意味していたことは、諮問時点から関係者には自明のことだった。

 新たな「枠組み」について審議経過報告では、①大学制度の枠組みの中における検討②大学・短期大学等と別の学校としての検討――という2つの考え方を示し、②が適当だとしつつも結論は今後の検討に委ねた。しかし、いずれにしても新たな学校種を高等教育機関として1条校化し、既存の専門学校から移行しやすいように制度設計していこう、という意図が透けて見える。

 だが今、本当に新しい学校種の制度化が不可欠なのか。報告が大学や短大に職業教育の充実を求めるまでもなく、各大学などでは生き残りを懸けて指導の充実に取り組んでいるところだ。報告が言うような大学・短大の「学術性」が、本当に職業実践的な人材育成の障害になるのか。たとえそうであったとしても、大学や短大の設置基準を緩和すればいいだけの話だろう。

 事は高等教育機関の教育そのものにかかわる話だ。だからこそ、その対応は各校に任せてもいいのではないか。職業教育やキャリア教育に十分対応できず、社会に有意な人材を送り出せない大学等は、淘汰(とうた)されていけばいいだけである。

 一部専門学校を新たな学校種として1条校化すれば、国庫補助も出せるようになる。それが真の狙いだろう。しかし、それも高等教育予算の拡充が前提である。幼児教育の無償化もそうであるが、消費税増税を当て込んだ論議は、勇み足に過ぎよう。

 繰り返しになるが、本社は学校教育におけるキャリア教育や職業教育の意義を強調した審議経過報告の趣旨に強く賛同する。高等教育においても、例外ではない。それだけに、各論の中に怪しげな提言がたくし込まれていることが、残念でならないのだ。 

にほんブログ村 教育ブログ 教育論・教育問題へ

 ↑ランキングに参加しています。奇特な方はクリックしていただけると、本社が喜びます

|

« 私大地元回帰 今こそ「大学」教育の抜本改革を | トップページ | 【池上鐘音】注意が必要 »

社説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/506419/45799944

この記事へのトラックバック一覧です: キャリア・職業教育 中教審報告への賛同と疑問:

« 私大地元回帰 今こそ「大学」教育の抜本改革を | トップページ | 【池上鐘音】注意が必要 »