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2009年9月23日 (水)

【池上鐘音】ダムに沈むはずだった温泉

▼以前、群馬の学校を取材した折、近くの川原湯温泉に泊まったことがある。値段が手ごろだったこと、砂風呂に引かれたこともあるが、何といっても決め手はキャッチフレーズの「ダムに沈む温泉」だった▼いつになるか分からない移転に施設改善にも二の足を踏む旅館の客室は、お世辞にも快適とは言えなかった。しかし住民の絶ち難い郷愁と、それを振り切ってまで新境地に向かおうとする悲痛な決意とが切々と感じられて、お湯とともに心地良く過ごせたことを思い出す▼源頼朝ゆかりと伝えられる温泉街の周辺では景勝地や寺社にも癒やされたが、あちこちに場違いな“壁”や水深表示があるのは異様でもあった。もうこの光景を見ることはないのか、いや沈む前にもう一度来たいものだ、と思いながら帰路に就いたものだった▼その川原湯温泉が揺れている。前原誠司国土交通相が民主党のマニフェスト通り、八ツ場(やんば)ダムの建設中止方針を表明したからだ。しかし激烈な反対運動を通して引き裂かれた地元が下したダムとの共存という苦渋の選択を、すぐに翻せるわけもない。反発は当然であろう▼成田空港拡張反対を「ゴネ得」と言い放って就任直後に辞任した大臣と比べるのは大変失礼だが、事はそれだけ微妙な住民感情に触れる問題である。もう少し上手なやり方はなかったのかと悔やまれる。そうすれば、対話の道は開けたはずだったろうに▼ただ、これを新政権ゆえの拙速と言って責めるだけというのも、また酷な話だろう。私たちは今、自民党政権下で長く続いた「土建行政」とでも言うべきものに対峙しているのだ。ダム問題の困難さは、政治転換の困難さの象徴でもある▼「教育費が橋や道路に化ける」というのは予算不足に泣かされてきた教育界の常とう句であるが、当事者も「橋や道路」に泣かされ続けてきたのだ。結論がどちらに落ち着くにせよ、公共の名の下に生活を犠牲にした人々のことを忘れてはいけない。

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