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2009年11月 7日 (土)

希望降任、新採退職… 「現場の危機」の現われだ

 文部科学省が毎年恒例の「公立学校教職員の人事行政の状況調査」の結果を発表した。2008年度は副校長・教頭からの希望降任が前年度比13人増の84人、主幹教諭からの希望降任が同62人増の89人、新採用(条件附採用)教員の依願退職者が11人増の304人となっている。「100万教職員」から見ればわずかな数字とはいえ、これらはあくまで氷山の一角であり、学校現場を覆う教職員の職場環境の危機ととらえるべきだ。改善に向けて、一刻も早い総合的な対応が求められる。

 もちろん副校長等の希望降任はここ数年、60~70人ほどで推移してきたし、今回の数値も約3万9000人の全体から見れば0.2%でしかない。しかし小・中学校で残業時間が月60時間超(文科省06年度教員勤務実態調査)にも上る現実から考えれば、この人数で踏みとどまっていること自体が奇跡に近い。

 主幹教諭からの希望降任数が増えているのは発令自体の増加(総数は2393人増の1万5301人)もあるが、全体の4割(36人)を東京都が占めているのが象徴的だ。都は国より5年も早く03年度から「主幹」(当時)を制度化してきたが、選考受験者の確保にすら悩んでいる。東京都に次いで発令者の多い神奈川県でも、ほぼ1%に当たる33人が希望降任している。

 これらの都県では、新しい学校マネジメントが徹底していないためとも評せよう。しかし、新採教員の依願退職はそうとは言えまい。

 新採の依願退職は05年度まで200人未満だったが、06年度281人、07年度293人、08年度304人と増加を続けている。採用者数自体も増えているので割合は3年連続で1.3%となっているから、条件附の「厳格な運用」には避けられない数値と言えなくもない。

 これについては、2006年に東京都新宿区立小学校の新任女性教諭が自殺した事例が象徴となろう。元来、教員志望者には真面目な者が多いが、その真面目さが自らを追い込んでしまうのだ。新採だろうとベテランであろうと教壇に立てば一人前の教員として見なされるのは昔もそうだったが、経験不足の若手教員をフォローし育てる余裕が今、教員集団にはない。

 そして、こうした事態はますます深刻化することが予想される。というのも現在、第2次ベビーブームに対応して大量採用された世代の大量退職が始まっている。全国で見れば、10年間でほぼ半数が入れ替わる計算だ。当然その大部分を、新採で補わなければならない。

 もちろん、大量退職・大量採用時代に備えて各都道府県教委では教員の育成システムや研修メニューを整備している。学校マネジメントの“機能強化”も、その一環と言えなくもない。しかし肝心の教職員集団に同僚性が失われたままでは、どれだけ体制整備を行ったところで、根本的な問題は解決しない。校内で若手教員を育成しようにも、管理職層が降任しようかと悩んでいる状態では仕方がなかろう。

 何より近年の学校・教員バッシングの中で、教員一人一人がますます孤立化している。時間的忙しさや肉体的疲労よりも、自らの仕事に自信が持てない精神的な消耗の方が、精神労働の最たる教育者には辛いのだ。

 問題の解決には、「これをすれば教育は良くなる」という特効薬はない。そもそも原因が複合的にからみ合い、その結果としての機能不全が世間から批判を浴びてますます信頼を落とすという悪循環を起こしているのだから、まずは「体力」を取り戻すための体質改善に、少しずつ取り組むしかあるまい。

 そのためにも、定数改善による教員の負担軽減は大前提である。世間でも成果主義には見直しの機運があるが、教育界においても行き過ぎた目標管理は改善されなければならない。何より教員が自ら研修していこうという余裕こそが、創造的な教育活動には不可欠だ。

 民主連立政権の教育政策はいまだ根幹が見えてこないが、教員の「質」を重視するのであれば、こうした構造的な問題を念頭に置いて教育行政を進めてほしい。教員免許制度の抜本改革にしても新採教員の置かれた厳しい状況を踏まえる必要があるし、民主党政策集にある「学校理事会」にしても肝心の学校組織が機能していなければ疲弊した建物に屋上屋を重ねるようなものである。新政権が「コンクリートより人」を標ぼうするのなら、その「人」自身の危機にこそ目を向けなければならない。 

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