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2009年12月27日 (日)

文科省予算案〈1〉 実質無償化を期に高校の“準義務化”進めよ

 2010年度文部科学省予算案では、高校授業料を実質無償化するとした民主党マニフェスト(政権公約)に沿って「高等学校等就学支援資金等」が盛り込まれた。高校教育は既に進学率がほぼ98%に達し、実質的には準義務教育機関化しているにもかかわらず、「義務教育ではない」という建前もあって、さまざまな矛盾が放置されたままだ。これを期に、名実共に「準義務教育機関」とすべく、指導面も含めた体制整備に力を入れるべきである。

 まず、今回の予算案の評価である。一律支給とする民主党マニフェストに対しては、「所得制限をつけるべきだ」という意見も根強かった。しかし文科省政務三役が繰り返し強調していたように、所得制限では単なる授業料減免の拡大に過ぎない。

 公私間格差を疑問視する向きもあった。確かに公立は全額無料、私立は公立同等額から世帯収入によって倍額までという制限がある。しかし考えてみれば、私立小・中学校では授業料が徴収されている。公私の差はあって当然だ。確かに私立では授業料はもとより、それ以外の納付金負担も大きい。しかし、それはあくまで「無償化」ではなく、あくまで教育費負担の軽減策として論議されるべきである。

 問題がないわけではない。概算要求にあった入学料や教科書費の給付型奨学金は、認められなかった。公立高校の授業料が無償化されても既に減免措置を受けていた低所得層に新たなメリットはなく、それ以上の所得層との教育費格差が拡大しかねない問題は、指摘されている通りである。自民連立政権下での8月概算要求にあったように、学用品費や修学旅行費も含めた“高校版就学援助”の一刻も早い実現が必要だ。

 ともあれ、ここで「実質」とはいえ無償化に一歩踏み込めた意義は大きい。国際人権A規約は中等教育に関して「無償教育の漸進的な導入」を規定しているが、この条文を留保していたのは締結国160カ国中、日本とマダガスカルだけだった。単なる予算措置にとどめず、法的根拠も含めた恒久的制度化も検討されるべきである。

 その上で、強調しておきたいことがある。高校が「国民的な教育機関」(財務省資料に対する文科省見解)であるならば、実質無償化に伴って、その教育責任も重くなることである。

 もちろん、ここで高校の義務教育化まで主張するつもりはない。しかし中学校卒業生のほとんどが進学する一方で高卒就職難が深刻化する現状にあっては、一時期より減少したとはいえ6万6千人を超える高校中退の問題を放置してはなるまい。卒業者も含め、教育成果の「質の保証」が社会的責任として求められていることを、関係者は再認識すべきだ。

 そのためには、まず条件整備の拡充が不可欠になる。とりわけ教育困難校に対する支援策の充実が急務だ。もう「義務教育ではない」と言って、生徒の自己責任を建前にしてはいけない。もちろん中退や進路変更は最終的に生徒や保護者の判断に任されるべきものだが、社会に有為な人材として送り出すためにも、学校現場が最後までギリギリの指導に打ち込めるような予算、人事両面での措置が求められる。

 教育行政はもとより、高校現場の意識も変わらなければならない。いわゆる「ゆとり教育」批判と学力向上の要請に威を借りて、進学実績を上げることに傾倒してきたのが、この間の高校教育の大勢ではなかったか。そうした中で必履修科目の未履修問題さえ起こしたことを、忘れてはなるまい。実質無償化を契機に、いま一度“準義務化”された高校教育の在り方を検証する必要がある。それだけの重みを持つ予算案であるはずだ。

 ただし、政権与党となった民主党にそれだけの自覚があったかは疑問が残る。実質無償化にしても「子ども手当」と同様、公共事業や補助金による国民への還元を「直接給付」に変えるという発想の方が大きかったろう。実質無償化の「意味」は、依然として未整理のままと言わざるを得ない。

 政権発足後4カ月という短期間で、理念まで十分に煮詰められなかったことは仕方がない面もある。だからこそ予算編成の山を超えた来年は、落ち着いた教育論を「国民目線」で展開することを期待したい。

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