菅新内閣に望む 文教政策も「着手」から「実効」へ
鳩山由紀夫首相の突然の辞任を受けて、菅直人・副総理兼財務相が新首相に指名された。組閣が8日に先送りされたため内閣の陣容やその方針はまだ明らかではないが、文教政策についても前内閣が手を付けた諸課題を、ぜひ実効性あるものにしてほしい。というのも、依然として「着手」の段階にとどまっている課題が多いと思うからである。
鳩山内閣で「実現」した最大の政策が、高校実質無償化であることは疑いない。川端達夫文部科学相が説明するように、進学率が98%に達する高校教育を、その効果が広く社会に還元されているものととらえ、費用も社会全体で負担するよう転換したことは、評価してもし過ぎることはなかろう。同じく民主党マニフェスト(政権公約)の目玉であった「子ども手当」と違って、単なるバラマキでは決してない。
しかし、本当に高校生が「安心して勉学に打ち込む」(川端文科相)ためには「高校版就学支援」などの保護者教育費の負担軽減策も欠かせない。2010年度予算編成では、自民連立政権の8月概算要求を組み替えて縮小したにもかかわらず、財源不足を理由にゼロ査定となった。川端文科相らも退任記者会見で、残された課題として認めている。
ただ、そのように高く評価できる高校無償化も以前指摘したように、当初から教育費を「社会全体で負担しよう」という方針から導き出されたものだったかは疑問である。厳しい評価をすれば、たまたま国際人権規約の理念に合致していた、と言えなくもない。真に教育費を社会全体で負担しようとするならば、高等教育も含めた予算拡充に大胆に踏み込むべきだ。
40人学級の引き下げをはじめとした教職員定数の本格的な改善は、まさに「着手」の代表例であろう。確かに10年度予算では行政改革推進法の縛りを打ち破り、理科など一般教員の改善に道を付けた。しかし、実現には高校実質無償化など問題にならないくらいの財源が必要になる。
問題は、政府予算全体の大幅な組み換えができるかどうかだ。10年度予算は年内編成という時間制限に追われ仕方のない面はあったろうが、教育費の拡充も、子ども手当の残り半額の支給方法にしても、税収不足を理由に逃げてはなるまい。その点は、まさに前財務相・元国家戦略担当相である菅新首相のリーダーシップが期待される。
着手と言えば、3日に中央教育審議会に諮問した「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策」もそうだ。教員免許更新制は政権発足当初から廃止の意向が示されていたにもかかわらず、いまだに「法律改正までは現行制度が有効」との説明を繰り返すばかりで、宙ぶらりんになった受講対象者の不安と困惑が続いている。今年中を目途に一定の方向性を示すとしているが、それでも遅すぎる。新文科相の下、中教審はせめて更新制の存廃だけでも先行して方針を打ち出すべきである。
その諮問についても、課題が残ったと言わざるを得ない。鈴木寛副大臣はかねて「熟議」と中教審を「車の両輪」として政策形成を行う構想を披露していたが、実際の諮問はこれまでのスタイルの域を出るものではなかった。熟議を単なる副大臣の個人的な趣向にとどめないためにも、現場と専門家、そして政治の新たな役割分担の形を提示することが求められよう。
行政の進め方で言えば、事業仕分けや行政事業レビューも、パフォーマンス以上の実効性はまだ現れていない。夏の概算要求にどう反映させるかとともに、その実施方法についても政府全体で再度検証し再構築する必要がある。
もちろん8カ月余りの短期間に、自民党政権下では想像もできないくらい相当の改革を進めたことは、評価してよい。しかし、改革はいまだ徹底されていないのも事実である。部分的な改善に終わるのか、それとも政権が替わっても続くような構造的改革にまで持っていけるのか。その可能性と方向性を示すことが、菅新政権にまず求められよう。参院選まで、ほとんど時間はない。
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