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2010年7月17日 (土)

定数増 今から「弊害」への備えを

 前回の社説ではかねてからの社論に反して、教職員定数改善を求めた中央教育審議会の提言に苦言を呈した。今回も定数増にけちを付けるような主張をお許しいただきたい。一般にはあまり知られていないが教育界では急がれている問題への対策を、さらに困難にする可能性があるからだ。教員年齢構成の偏りのことである。

 世間では「団塊世代の大量退職」などと言われるが、教員の世界は第2次ベビーブームに対応して大量採用が行われたため、10年遅れで「ひしめく50代」の本格的な大量退職時代がやって来る。文部科学省の2009年度調査から算出すると、公立小・中学校教員のうちピークの51歳より上は34%、46歳以上を加えると52%、41歳以上では66%となる。つまり、あと10年で3分の1、15年で2分の1、20年で3分の2が入れ替わる計算だ。しかもこれは、全国の数値である。高度経済成長期に人口が集中した大都市圏ではもっと深刻で、10年で半数が入れ替わるとさえ言われている。

 1990年代は児童・生徒減に対応する形で、新規採用が極端に抑制された。2000年代に入ってから少人数指導への対応などで多少持ち直したものの、年齢構成は50代以上の38%に対して、40代は31%、30代は20%と偏りは隠せない。

 純粋に年齢構成の是正を考えるなら第7次定数改善計画(01~05年度)の時に大幅な定数増を図っておくべきだったが、時期が悪すぎた。財政的には国も地方も公務員数の削減が、政治的には構造改革が迫られていた。同計画では児童・生徒数の減少に伴う「自然減」分が改善に回されただけで、要するにプラスマイナスゼロだった。その間、義務教育国庫負担制度の存在さえ危うくなるほどで、第8次計画の策定も幻に終わってしまった。

 その結果いま学校現場で起こっていることは、管理職になれない者も含めたベテラン層のモチベーション低下、極端に薄い中堅層の多忙化、そして若手教員の孤立化とマニュアル頼みの傾向である。主幹・指導教諭の新設と組織マネジメントの確立、優秀教員の表彰制度と優遇策、“教師塾”などの設置を含めた教員研修の強化、再雇用教員による新任教員のメンター(指導員)制などは、いずれもそうした課題への対応を背景にしている。

 定数改善に伴って今後、教員が大量採用されても、それを育成すべき中堅・ベテラン層に余裕も意欲もないとしたら、過去のノウハウや経験が継承されないまま手探りで教室に臨まなければならない。しかもそこで相対するのは、明らかに昔よりも対応が難しい子どもたちである。

 もちろん、そうした状況に備えて教職大学院をはじめとした教員養成課程の改革、教委独自の教師養成塾などの対応は進んでいる。しかし本格的な定数改善がすぐに始まるとなれば、今まで以上に取り組みを加速化させねばならない。

 そして、もっと深刻な問題がある。教員の質の低下だ。教員採用をめぐっては地方と大都市圏で極端な倍率の開きがあるが、今や低倍率の首都圏では採用試験対策にさえ意欲が低い者でも容易に受験できる状況にある。採用側も、量を確保するためには多少疑問の残る者でも採用せざるを得ない。30代や40代の“新人”も今まで以上に増えることだろう。どんなに厳密な採用選考を行っても「問題教員」が紛れる可能性があることは経験が教えるところだが、今後ますますそのリスクが高まることは避けられない。昨今の教員不祥事などを見ると、問題の噴出は既に始まっているとさえ思えるふしがある。

 教員バッシングをするのは簡単だ。ただ、精神論だけで解決できるほど問題は単純ではない。教員という存在に崇高さを要求することよりも、今いる教員、さらには教員予備軍の質をどう高め、組織的な学校の力をどう上げるかの具体策が、今まで以上に求められる。

 それでも定数改善が急がれる状況にあることは、中教審の提言通りだ。その上で今後、必然的に起こり得る弊害への備えを十分に行っていく必要があるのだということを、あえて強調しておきたい。

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