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2010年7月13日 (火)

定数改善 あえて「禍根」を指摘する

 中央教育審議会の初等中等教育分科会が、40人学級の標準引き下げと新たな教職員定数改善計画の策定を提言した。定数増はかねてから本社の主張することころであり、提言事項にもおおむね同意できる。本来ならもろ手を挙げて賛成し応援したいところだが、あえて苦言を呈しておきたい。提言文をよく読むと、後に禍根を残しかねない論理構成になっているからだ。

 定数改善の理由の第一には、新学習指導要領への対応が挙げられている。その理由自体に異論はない。しかし、同種の主張は提言文にもある通り2008年の中教審答申でも行っていたものであり、それに対して財務省は「現場は織り込み済みのはずだ」として文部科学省の要求を突っぱねた経緯がある。これを打ち破るほどの新たな主張は、まったくない。

 生徒指導面の課題への対応、学級経営の確立、子どもと向き合う時間の確保についても、その指摘には文句の付けようはない。しかし、定数を増やせば諸課題が解決に向かう、という根拠は、ほとんど示されていない。

 学校現場の苦労と困難さを考えれば、こうした指摘が難癖以外の何物でもないことは承知の上である。それなのになぜ、このような難癖を付けるのか。提言文が「エビデンス・ベース」(証拠に基づいた)の論議から、いまだ程遠いと感じるからだ。

 2000年代前半、学力低下批判と学校・教員バッシングの嵐の中で、小泉構造改革路線を背景に義務教育費国庫負担制度(義務教)の存廃が論議された。文科省・教育関係者と総務省・地方団体が激しく対立する中で、苅谷剛彦東大大学院教授(当時)が主張したのが、教育政策論におけるエビデンス・ベースの必要性だった。学力低下といっても、そもそも学力を経年で比較する公式データさえなかった。教育政策は情緒的にではなく、客観的な根拠を基に論議すべきだ――。そうした主張は、義務教論議を超えて教育界に一定の影響を与えたはずだ。

 提言文には、ヒアリングやアンケート、各種調査やデータが「根拠」として挙げられている。しかし、肝心の学級定員の引き下げにしても、何人にすればこれだけ教育効果が上がる、といった実証データはない。

 そもそも提言文は「引き下げ」を求めているだけで、何人にすべきだとは書いていない。実質的には、文科省に丸投げしている。もっと言えば、文科省と財務省の予算折衝に委ねている。それでは、以前と何も変わらないではないか。双方が自分に都合のよいエビデンスを持ち出して、主張は平行線のままになりかねない。

 もっとも政治的には、それでも構わない気もする。義務教だって中教審答申などまったく関係なく、教育に無関心だった当時の小泉純一郎首相の政治判断で負担率が引き下げられた。マニフェスト(政権公約)に「教員の質と数を充実させる」と盛り込んで政権交代を果たした民主党政権下は、千載一遇のチャンスだろう。まして消費税論議で大敗した参院選の直後である。今ならまだ有権者・保護者も同意してくれるだろう。来年度予算を逃したら、機会はしばらく来ないかもしれない。なりふり構わず改善計画をスタートさせなければならないことは、重々承知している。

 それだけに、もし来年度予算がだめだったら、どうするのか。政治的混迷と国際的な財政再建圧力が強まれば、ますます機会を逸してしまいかねない。それを打ち破るほどの論理を構築できなかったことを、残念に思うのだ。

 自分に都合のいいデータや事実をもっともらしく並べて読み手の情に訴えるというのは、本社を含めたマスコミのよくやる手法である。だから本来、今回の中教審提言を批判するなど矛盾することはなはだしいのは自覚している。それでも将来のことを考えて、あえて指摘した次第である。

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コメント

定数改善 あえて(禍根)を指摘する。よみました。(木山高美)
 今回の中教審報告゜『学級規模の縮小』40人以下とする。一人社説読みました。
 学級上限は36人が適切。現在の教室のサイズでは、6人6列が限度。中学生ともなると体格も大きくなり、せいぜい36人。グル-プ学習の場合も適切。と現職の中学校の先生方は言っている。
 全国の教育関係者や多くの保護者が待ち望んでいるのが学級規模の縮小。文科省はしっかり資料をそろえて財務省との折衝に当たって欲しい。もはや40人学級のも直しは世論であり、大きなうねりだ。
 もう一点、その実現には3000億規模の予算゜。参議院議員選挙での各党マニフェストの熱が覚めやらぬ今、今期の概算要求で形をつけてほしい。
 一人の社説殿 今後も自信と勇気を持って時局を切って欲しい。(22.7.18)

投稿: 木山高美 | 2010年7月18日 (日) 13時23分

木山先生、いつもありがとうございます。連続2回にわたって捻じ曲がった社説を掲げてしまったので、今後は真面目に(?)論ずることにします。
6×6で36人というのは、まさに現場ならではのリアルな意見ですね。そうした指摘こそが、現実的な教育改革を促すのだと思います。今後ともよろしくお願いします。全連退の提言活動にも期待申し上げます。

投稿: 本社論説 | 2010年7月18日 (日) 15時00分

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