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2010年12月

2010年12月27日 (月)

教員の精神疾患 危機はまだまだ拡大する

 精神疾患で休職した公立学校教員数が2009年度で17年連続の増加になったことが、文部科学省の調査で明らかになった。前年度まで数百人単位で増えてきた数は今回58人増にとどまり、在職者に占める割合も微増だったことから一定の歯止めが掛かったとみる向きもあるが、早計にすぎよう。むしろ危機は今後まだまだ拡大するとみるべきだ。

 ここで教育社会学者のまねごとをしてみよう。といっても統計のある3年間に限られる。精神疾患者の年代別構成比をみると20代6.7%(07年度比0.5ポイント増)、30代21.1%(同1.9ポイント減)、40代35.3%(同2.2ポイント減)、50代以上38.8%(同3.6ポイント増)となっており、採用数自体が増えている20代を除けば、第二次ベビーブーム時に大量採用された「ひしめく世代」に急増していることが分かる。逆に言えばこの世代が大量退職してしまえば、その下の中堅世代ではむしろ減少しているのだから、問題は解消の方向に向かうという楽観的な見方も成り立つ。

 しかし、年代別に精神疾患の出現率(教員数に対する精神疾患者の割合)を算出すれば、20代は0.46%(同0.05ポイント増)、30代は0.57%(同増減なし)、40代は0.65%(同0.02ポイント増)、50代以上は0.81%(同0.14ポイント増)となる。ここでも「ひしめく世代」の急増が目立つが、20代の新任層の増加が気になる。

 というのも、都市部を中心に今後も大量退職を補うための大量採用が続く。それに伴って志願倍率も低下しており、必要数を確保するためには質の低下に構っていられない状況すらある。一方で児童・生徒や保護者の対応はますます困難を極めているし、「活用」力の育成も含めて新学習指導要領に基づく授業改善が一層求められるから、ベテラン・中堅のみならず新任層のストレスはさらに高まろう。当然それは精神疾患者の絶対数の増加に直結する。

 しかも先の予算折衝で35人学級は1年生だけに認められ、しかも新たに必要となる定数増2300人のうち2000人は従来の加配定数を振り向けるという。少人数指導や通級指導の加配は維持するというが、2年生以上の生徒指導などが手薄になることは避けられない。06年度時点でも月平均で約42時間の残業があったというのに、減るどころか逆に増加することは間違いない。

 まねごとにしてはいささか幼稚で、かつ牽強(けんきょう)付会であったことをお許し願いたい。しかし教育現場の現状を見るに、とても楽観視できる数字とは絶対に思えないのだ。

 ましてや「教員の数より質の向上が先だ」などという主張は的外れである。精神論だけで教育が良くなるはずはない。いま起こっているのは、まさにその精神の病なのだから。しかも大量退職・大量採用時代の需給バランスを考えれば、むしろ質の低下を前提として向上策を立てなければ、実効性ある政策にはなるまい。当然、予算という資源投入も含めての話である。

 その意味でも、定数改善が小幅にとどまったことは残念というより納得できない。結果的には民主党政権でも現場の困難に目が向けられなかったといっても過言ではなかろう。ましてや、これで学力トップレベルを目指せというのは、どだい無理な話である。

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2010年12月 9日 (木)

PISA02009 これが成果であり限界だ

 2009年に行われた経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA2009)の結果が発表された。この間の教育現場の取り組みを思うと、日本の数値は極めて納得できる。教育現場ができる限りの努力をした末の成果であるとともに、その限界をも示すものでもある。結果を基に、冷静な教育政策論議を行う必要がある。

 調査結果によると、読解力は第1回のPISA2000のレベルにまで回復した。PISA2003での低落による「PISAショック」を受けて、早くから読解力向上に取り組んだ成果だろう。ほかの分野も含めて、改善の兆しは各所に見られる。07年度に開始した全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で半ば唐突に「活用」のB問題を出題したことも、現場に大きな影響を与えたのは事実だ。校内研究のテーマが国語や算数・数学の「PISA型学力の育成」一色に染まったように、教室レベルで授業改善の努力が積み重ねられたことは高く評価されてよい。

 しかし、それでもトップクラスになれなかったことを客観視すべきである。とりわけ、これだけ現場が力を入れたにもかかわらず、数学的リテラシーは伸びなかった。読解力や科学的リテラシーが成績下位層を減らすことに成功しているのに、数学的リテラシーでは横ばいないし微減にとどまり、かえって中位層が減少している事実を軽視すべきではない。

 ほかの国と比較しても、まだまだ上位層を増やし、下位層を減らす余地はある。問題は、そのために何をすべきかである。

 この間のことを思い起こしてみよう。PISAショックの時は小泉構造改革に基づいた規制緩和・自由競争路線の最盛期で、義務教育費国庫負担さえ風前の灯であった。世間一般の公教育不信に乗じた中山成彬文部科学相(当時)の相次ぐ放言も、さらに不信を助長した。その後は安倍「教育再生」路線による教育界・学校バッシングがエスカレートし、行き過ぎた学校評価と勤務管理にもさらされた。そうした逆風の中で、心が折れそうになりながらも全国の教員が取り組んだ授業改善だ。

 もう「精神論」だけでは、国際社会が求める学力はこれ以上伸ばせない。本気でトップクラスを目指すというのなら、そのための有効な具体策を本気で検討すべきだろう。

 そもそもPISAは、学力コンテストでも教育ランキングでもない。データを基に各国が改善のための政策を立て、具体的な教育投資を行うためのツールである。そのことを忘れては、竹やりで本土決戦に備えた愚を繰り返すようなものだ。ましてや「ゆとり教育見直しの効果が表れてきた。気を緩めるな」などという無意味な総括は、百害あって一利ない。

 常識的に考えれば、概算要求している教職員定数改善計画の予算化は最低条件のはずである。クラスの人間関係の安定も含め、落ち着いた環境の中できめ細かな指導を行うためには、今以上の手厚い条件整備を行うしかあるまい。かつて財務省は「教員を増やしても学力向上の成果は上がっていない。もっと努力する余地があるはずだ」と主張して定数改善を阻んだが、その結果どこまで成果が上げられたか、今回のPISAの結果をよくよく検討すべきである。

 現在の政権与党である民主党にも、そのことを重々認識してほしい。「新成長戦略」に世界トップレベルの順位を掲げたのは、ほかならぬ菅内閣である。万が一、財源不足を理由に定数改善を見送るようなことがあれば、こぞって教育界に見捨てられるであろう。

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