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2011年9月 4日 (日)

【池上鐘音】「鎌倉」のない鎌倉

▼武士道といえば欧州の騎士道にも匹敵する倫理だと思われている向きがあるが、そうしたイメージは新渡戸稲造らによって形作られた「明治国家の『近代市民』の思想」(菅野覚明『武士道の逆襲』講談社現代新書)なのだそうである。「本来の武士道」にしても太平の世が続いた江戸中期までは儒教的な道徳とまったく関係のない、殺すか殺されるかの実力闘争の中で生み出された精神だったという▼とりわけ東国武士のそれは、徴発された奥州征討での蝦夷との激烈な戦闘体験が基になっていた。そんな武士たちが初めて築いた都が今、「武家の古都・鎌倉」として世界遺産に推薦される方向が国内で固まった▼文化審議会の特別委員会に提出された準備状況報告書によると、「三方を山に囲まれ、一方を海に開く」要害的地形と一体になった「世界的に稀有な政権所在地」なのだという。しかし国内に類似するものが存在しないということは、その後の武家政権にとってモデルにならなかったことの証しでもあろう▼「固有の社寺景観」にしても、構成資産リストに加わっている永福寺跡は攻め滅ぼした奥州藤原氏の都・平泉を模して造られたものであった。都の造営プラン自体も実は平安京の大内裏を鶴岡八幡宮に置き換えたもので、比叡山延暦寺に当たる位置の山はわざわざ「天台山」と名付けている▼血気盛んな武士同士の夜討ち朝駆けと新田義貞の鎌倉攻め、その後の天変地異などによって「鎌倉時代の建築物は一つとして残っていない」(河野眞知郎『中世都市鎌倉』講談社選書メチエ)。ちなみに寺社には「伝運慶」の仏像が多々あるが、真作と認められたものは横須賀など周辺にあるあるものばかりだ。もっとも構成資産には、4年前に運慶作と判明した大威徳明王のある金沢文庫の称名寺が含まれてはいるが▼小子は学生時代の6年間を場所だけは一等地の鎌倉で過ごし、寺巡りを趣味とする現在もしばしば訪れる第二の故郷である。それでも駅舎の「世界遺産をめざすまち」という看板を見るたびに「それは無理だろう」と独りごちている。現在の隆盛もまた近世中期以降の観光ブームによるものだが(加藤理『〈古都〉鎌倉案内』洋泉社)、世界遺産は「観光遺産」とイコールではない。

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絵画を介して自分と自分を取り巻く世界について考え始める子どもたちの姿を追うドキュメンタリー映画の上映会のご案内をさせてください。

美術館の入り口から入った子どもたちは、単なる美術鑑賞のステージから、やがて絵画作品との対話へのステージと進む。美術館を出た彼らはどのように変わっていくのだろうか。子どもたちが、神奈川県立近代美術館(神奈川県)と戦没画学生慰霊美術館「無言館」(長野県)の展示作品と「対話」をすることで、学習の成果は、時間の経過の中で徐々に子どもの中でカタチを変えながら内面化されていく・・・。

小学校時代に多くの時間を美術館で過ごした子どもたちのその後を、ドキュメンタリー映画化。10月の横浜をスタートに、長野、東京と順次上映会を開催します。

【上映映画】
★『Museum Trip(22min)<鎌倉の立てる像たち・拝啓鬼様>』
出演:横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校卒業生有志
監督:森内康博
企画:稲庭彩和子(神奈川県立近代美術館学芸員<2009年当時>)
高松智行(附属鎌倉小学校教諭)
制作:(株)らくだスタジオ
協力:神奈川県立近代美術館、国立情報学研究所
制作年:2009年
*ドイツ「ワールドメディアフェスティバル2011」ドキュメンタリー部門入賞

★『青色の画布-十五歳 もうひとつの無言館-(50min)』
出演:横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校卒業生有志(映画「無言館」に出演)
   窪島誠一郎(無言館館主)
監督:森内康博  
企画:高松智行(附属鎌倉小学校教諭)
制作:株式会社らくだスタジオ
協力:戦没画学生慰霊美術館無言館、
横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校
制作年:2011年

<上映会1>『Museum Trip』『青色の画布』
■日時:10月30日(日) 19:00~
■会場:関内ホール(※横浜/JR関内駅徒歩5分)
■当日券:1000円
※メールにて事前にお申し込みの方は前売り料金の800円でご覧になれます。
○氏名○所属○人数 を明記の上、info@rakudastudio.com までお申し込み下さい。
■お問い合わせ:050-3585-7161(『青色の画布』上映会係)

<上映会2>『Museum Trip』『青色の画布』
■日時:12月3日(土) 19:00~
■会場:上田映劇(※長野県上田市/JR上田駅から徒歩)
■当日券:1200円
※メールにて事前にお申し込みの方は前売り料金の1000円でご覧になれます。
○氏名○所属○人数 を明記の上、info@rakudastudio.com までお申し込み下さい。
■お問い合わせ:050-3585-7161(『青色の画布』上映会係)

<上映会3>『青色の画布』
■日時:1月21日(土) ①16:00~ ②19:00~
■会場:キッドアイラックホール
(※東京/京王線明大前徒歩3分)
■当日券のみ:500円 ※窪島誠一郎氏のトークあり
■お問い合わせ:050-3585-7161(『青色の画布』上映会係)

投稿: 鎌倉なんとかナーレ | 2011年9月24日 (土) 22時25分

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