「教育基本条例」の全国展開に警戒を
橋下徹・大阪市長らが東京で繰り広げた2泊3日の就任あいさつ行脚は、ダブル選挙圧勝の力をまざまざと見せつけた。争点となった「大阪都構想」についても、みんなの党がさっそく地方自治法改正の要綱案をまとめたほか、民主、自民、公明の主要与野党も相次いでプロジェクトチーム(PT)を設置している。
教育基本条例案をめぐっては、最終日が象徴的だ。朝一番で面会した中川正春文部科学相に対して橋下市長は、条例案が法律に抵触することを指摘した政府見解を「首長をばかにするような決定」だと批判。上京の締めくくり相手として選んだ石原慎太郎・東京都知事からは、都でも同様の条例案を検討したい言質を得た。
橋下市長は石原知事との会談後、「東京と大阪のダブルで教育委員会制度に挑戦する」と語っている。「大阪維新の会」の威力を恐れる与野党が都構想だけでなく教委制度改革にも積極的に応じる恐れは、十分にある。
実際、中川文科相は翌日の記者会見で、省内にタスクフォース(特別作業班)を設置し、年度内に教委制度の課題を整理したい意向を示した。場合によっては中央教育審議会への諮問や審議要請につながる可能性も捨て切れない。
もちろんその場合、文科省や中教審は規制緩和・民間開放論議や「教育再生」論議の時と同じように「抵抗勢力」として振る舞うだろう。しかし与野党こぞって橋下連携に秋波を送る中、どれだけ譲歩を迫られるか危惧される。
中川文科相も言及しているように、そもそも民主党は2009年の衆院選マニフェストで教委制度の抜本的な見直しと「教育監査委員会」の設置を掲げており、政権交代直後に副大臣に就任した鈴木寛氏は政権担当4年間のうちに教育行政と学校運営の「ガバナンス(統治)」改革にまで着手したい意向を示していた。橋下氏の提起に乗じる下地は、大いにあるのだ。
中央政界のみならず、地方でも呼応する動きが出ないとは限らない。「維新の会」方式を採用すれば、橋下人気にあやかって当選の見込みが出てくると考える者も続出しよう。橋下氏との共著もある堺屋太一・元経済企画庁長官は自民党のPTで「橋下・松井改革」を長州藩の騎兵隊になぞらえて、「全国から同志を集めて日本を変えたい」と発言している。
政治家が維新の志士を気取るのは今に始まったことではないが、明治維新の熱狂が廃仏毀釈(きしゃく)など負の側面をもたらした――というのは言い過ぎにしても、その後の第二次世界大戦敗戦まで突き進んだ歴史的教訓も忘れてはなるまい。
大阪府・市と東京都の連携といっても、優秀な東京都職員のことだから国の法令に反するような条例案を作成するはずはない。この間の教育改革にしても都教委の絶大な主導によって進められたものであり、教委制度を問題視するとも考えにくい。しかし学校現場の締め付けを強化するような提案が出されることは予想でき、ただでさえ息苦しい現状のさらなる悪化が懸念される。そして、そのような他県にも受け入れやすい教委改革メニューが、維新の志士気取りたちによって全国に波及するかもしれないのだ。
大阪の条例案に関しては、全国的な関心が薄いとも言われる。本社は必ずしも現行の教委制度が理想形だとは思っていないし、マルティン・ニーメラー牧師の詩を引用するつもりもないが、条例案が学校教育を良くするとは全く考えられない。国民的な注視が必要だろう。
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