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2013年1月27日 (日)

入試中止問題 「拙速」な教委制度改革を占う事案だ

 部活動顧問の教諭による体罰で生徒が自殺した大阪市立桜宮高校の今春入試をめぐって、橋下徹市長の中止要請を受けた市教育委員会は体育科など2学科の募集停止と、募集人員や試験科目を変えないまま普通科に振り替えることを決めた。決定の是非は、この際おいておこう。問題の根本は橋下市長が言う通り、教委制度そのものを問おうとしていることにあるからだ。そして今回の事案は、首長の権限が強まればどういう事態を招くかをも示す事例と言えるように思う。

 市教委の判断に対しては、「折衷案」という評価が大勢のようだ。それでも橋下市長自身が「素晴らしい決定をしてくれた」というのだから、現行制度の下では満足できる結果なのだろう。

 ここで、もし首長に教育行政の管轄権があったらどうなっていたかを考えてみよう。橋下市長の判断で即、入試は中止となっていただろう。もっと言えば橋下市長は今回の事案を生徒や保護者の意識も含めた同高全体の体質が問題だと捉えているのだから、場合によっては同高の即廃校すらあり得た。

 政権に返り咲いた自民党は政権公約で、首長が議会の同意を得て任命する常勤の教育長を教委の責任者にするとしている。そうなると教育長は首長の直属の部下として、その指示に従った判断をすることになろう。今回の事案で言えば、橋下市長の判断イコール教委の決定になるわけだ。

 橋下市長は事あるごとに「僕が間違っていたら選挙で落とせばいい」と主張する。では、選挙までの間はどうなるのか。子どもを育てるには長期的視点が不可欠な学校教育に関して、任期期間中は首長がいかようにも左右できる白紙委任状を与えていいものなのか。数年後に落選させたところで、取り返しはつかない。

 もちろん、自民党の公約通りに教委制度改革がなされたら全国で大阪市のような事態が起こる、とまで言い立てるつもりはない。少なくとも首長の“暴走”を止める手立ては講じておかないといけない、ということである。

 教委を首長の諮問機関とするアイデアも、よく語られる。前政権の民主党にしても合議制教委に替わる「教育監査委員会」を唱えていた。ただ諮問機関の独立性がいかに怪しいものであるかは、とりわけ省庁再編後の中央教育審議会の動向を見れば推して知るべしであろう。

 国と地方の関係も大きな対立点になろう。自民党公約では「国と地方の間」についても「権限と責任のあり方」の抜本的な改革を行うとしているが、いじめ対策にみられるように国の管理統制をさらに強化しようという方向にあるのは明らかだ。それが学校設置を自治体の義務とした地方教育行政の在り方にとって望ましいことなのかどうか、慎重な検討を要しよう。

 一方、橋下市長は文部科学省に対しても批判的であり、地方の権限を強めるよう主張している。同じ大阪府内では泉佐野市の千代松大耕市長が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別結果を公表する意向を示し、文科省が学テ参加を認めない方針を伝えるといった対立も起こっている。教育は誰でも口が出せるだけに、首長思いつきの教育政策を独断で振り回されてはたまらない。

 確かに現行の教委制度に問題がないとは言わない。地方教育行政制度研究の第一人者である小川正人放送大学教授も、委員を務める中教審の教育振興基本計画部会で下村博文文部科学相の検討要請に対して「むしろ私の考え方に近い」と述べるほどである。

 ただ、検討するなら現行教委の問題点ばかりでなく、首長側の問題点も併せて俎上(そじょう)に乗せるのでなければ均衡を欠こう。その検証事例として、大阪で橋下氏が府知事に就任して以降の事態は最も適している。

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