全国学テ 公表の是非より尋ねるべきこと
大阪府泉佐野市の千代松大耕市長が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別結果を公表する方針を表明していた問題で、下村博文文部科学相は2014年度以降の調査について関係者の意見も聴きながら公表できるようにするか検討すると表明した。
それまで文部科学省は教育委員会に対して学校別や市町村別の結果を非公表とすることに文書確約を求めていただけでなく、泉佐野市の参加を認めない構えさえ見せていた。そうした姿勢から比べると、大きな方向転換である。
しかしこれは単に公表を認めるかどうかという細かな修正にとどまらず、全国学テそのものの性格にかかわる重大な変更の可能性をはらむ問題だ。慎重な対応を求めたい。
全国学テの創設を提言した05年10月の中央教育審議会「義務教育の構造改革」答申では、「学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要」としていた。市町村別や学校別の順位を出さないことは、制度設計前からの大方針だった。
下村文科相が言うように「保護者や地域住民に対して説明責任を果たす」というなら、現行通り市町村が公立学校全体の、学校が自校の結果を公表することを認めるだけで十分だ。それ以上の情報公開を行うのであれば「結果」だけでなく、そうなった個別の事情も含めて「説明」するのでなければ公正さを欠こう。とりわけ個別学校の事情を公表するのは弊害が大きいことは、以前に指摘したので繰り返さない。
市町村が個別学校の事情を改善したいのならば、内部での把握にとどめて粛々とてこ入れ策を講じればいいだけの話である。校内の事情なら、保護者らに直接説明すべきものであろう。わざわざ結果だけを公表する必要はない。
一番の問題は、結果の公表を求める首長たちが、それによって学校の尻をたたこうとしていることだ。その裏には、学校現場に対する不信感があることは疑いない。
もし首長の意見を聴くというのなら、ぜひ尋ねてもらいたいことがある。結果を受けて成績不振の自治体や学校にどれだけ予算面や人事面で配慮をしたか、である。発表せずに内部でこっそり行っている自治体があれば、それはそれで結構なことだ。ただ、そんな話は噂ですら寡聞にして聞かない。聞こえてくるのは、現場を責め立てるがなり声ばかりだ。
文科省の専門家会議でも、全国学テの結果を格差解消のためのデータとすべきことに繰り返し期待が表明されている。全国学テの結果は、やはり成績不振の自治体や学校を支援するためにこそ活用すべきだ。
千代松市長によると、7日に面会した文科省の布村幸彦初等中等教育局長は「市長の考えを形にできるような検討をしていきたい」と語ったという。順位を出すための「模試」にするのだったら、国営で行う必要などない。「貴重な予算を使って教育改善のために実施している」(下村文科相)のであればこそ、根本的な方向性を誤ってはならない。
【全国学力テスト関連社説 バックナンバー】
◆全国学テ再論 結果の公表は“消極的”に(2008年3月15日)
◆全国学テ開示問題 だから任意参加にすべきだ(2008年8月18日)
◆全国学テ公表問題 そもそもデータに限界がある(2008年9月13日)
◆全国学力テスト 公立「全校参加」を惜しむ(2009年3月25日)
◆全国学力テスト 成績不振校から支援を(2009年4月21日)
◆新政権に望む〈3〉 全国学テは「抽出」より「任意」に(2009年9月17日)
◆概算要求〈2〉 抽出学テ 重くなる地方教委の責任(2009年11月3日)
◆全国学テ 参加率の高低は本質ではない(2010年3月 6日)
◆全国学テ中間まとめ案 総括になっていない(2010年7月26日)
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