« 「古い教科書観」のままでいいのか | トップページ | 【内側追抜】世界遺産候補 »

2013年9月 4日 (水)

「高等教育の無償化」本気で目指せ

 「高等教育の無償化に向け」――。さらりと書かれた一文の意味は重い。概算要求当日の8月30日付で文部科学省の「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」がまとめた報告書のことである。

 あくまで局長の私的諮問機関による提言であり、中教審答申のような権威はない。しかし従来なら、そんな報告にすら財政当局をおもんぱかって決して書かれなかった文言である。そこをあえて書き込んだのは、明らかに下村博文文部科学相の意向が反映していよう。

 大臣自身、交通遺児で小学校時代から苦学し、第1期「あしなが奨学生」として高校、大学に進学。在学中に始めた私塾経営も含め、教育改革を目指す政治家の原点になったという。4月に日本記者クラブで行った会見では、公財政教育支出を国内総生産(GDP)比で経済協力開発機構(OECD)平均並みに確保して幼児教育から大学までを無償化する構想さえ披露した。

 報告書は、たった4回の会合でまとめられた。しかし教育費問題の第一人者である小林雅之・東大教授を主査に気心の知れたメンバーを集め、議論もとんとん拍子に進められた。関係者にとって課題は既に明らかであり、後は明文化できる範囲でどう整理するかだけだったのだろう。

 そんな中で「将来的に目指すべき方向性」という限定付きながら、漸進的な無償化が打ち出された意義は大きい。国際人権規約A規約の留保を撤回したのは昨年9月、民主党政権下だったが、自公政権に代わっても無償化方針を継承する姿勢を文科省が示したものとも言えよう。

 後はどう実現するかである。概算要求では有利子奨学金からのシフト分(4万人)と併せて無利子奨学金の貸与人員を7万人増やすとしている。延滞金負荷率10%を5%に引き下げることも盛り込んだ。下村文科相が要求全体について「一円たりとも減額されない姿勢で取り組む」と言っているように、ぜひ最低限これだけは実現してほしい。

 もちろん「無償化」までのハードルは高い。OECD並みGDP比といっても消費税4%分に当たる10兆円の追加投資が必要だといい、下村文科相は「教育目的税」の私案まで披露していた。

 1000兆円もの借金を抱える中でも「未来への先行投資」として、予算を拡充するか。それとも受益者負担、自己責任に帰して無利子奨学金の拡大すら惜しむのか。まずは年末の予算折衝で、政権の姿勢が問われよう。本気で「教育再生実行」を口にするなら、カネのかからないイデオロギー的な改革論議ばかりではなく、かつての長期政権下で行き詰まりを見せていた教育条件整備の構造を抜本的に改善すべきだ。その上で、道のりは遠くても本気で無償化を目指してほしい。

 併せて高校授業料無償化の所得制限も、いずれは撤回すべきだ。幼児教育の無償化を打ち出し、高等教育の無償化さえ展望しながら後期中等教育だけ「バラマキ」と言うのは矛盾している。公約上、概算要求は仕方ないだろうが、野党時代の恩讐を超えて本格政権としての堂々とした姿勢を見せてほしい。 

にほんブログ村 教育ブログ 教育論・教育問題へ

 ↑ランキングに参加しています。奇特な方はクリックしていただけると、本社が喜びます

|

« 「古い教科書観」のままでいいのか | トップページ | 【内側追抜】世界遺産候補 »

社説」カテゴリの記事

コメント

大学までの無償化を本当に実現していただきたいです!それによって経済的負の連鎖や生まれながらに格差があり、それをなかなかリカバリーする機会のない今の社会が少しでも変わるのではないか、また、少子化改善にも一石を投じる政策になると思います。学資保険もいらない、学費の心配もいらない仕組みを切に望みます。児童手当てを頂いていますが、それより大学まで無償化の方が、子ども達にとっても社会にとっても良いと思います。

投稿: とらまろ | 2013年9月11日 (水) 22時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/506419/58129478

この記事へのトラックバック一覧です: 「高等教育の無償化」本気で目指せ:

« 「古い教科書観」のままでいいのか | トップページ | 【内側追抜】世界遺産候補 »