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2014年7月 5日 (土)

教育再生実行会議 羊頭狗肉の「学制改革」

 予想通りとはいえ、ひどいものだ。教育再生実行会議の第5次提言「今後の学制等の在り方について」のことである。客観報道を旨とする新聞各紙はさぞ大事のように報じざるを得ないのだろうが、本来ならまともに扱うような代物ではない。

 「幼児教育の無償化」がいい例だ。本文をよく見ると、「財源を確保しつつ」「段階的に推進し」と逃げを打ってある。明らかに財務省サイドに負けた表現だ。5歳児の義務教育化に至っては、段階的無償化の「次の段階の課題」に位置付けられている。無償化が実現されなければ義務化もできない、と読むべきだろう。

 議論する前から意図は見え見えだった。義務教育年齢の引き下げなどという大風呂敷を広げて、実際に狙うところはいかに幼稚園に落すカネを増やすかという話である。確かに幼児教育の充実は経済協力開発機構(OECD)も推奨しているように高い教育投資効果が見込めるのだが、だったら保育所も含めた2610億円の財源措置まで示すのが「国家戦略」(第5次提言「はじめに」)というものだろう。

 敗戦直後に比べて子どもの発達が2歳ほど早まっていることは、議論するまでもなく明らかなことだ。それでも首相直属の会議で学制改革を見直すというなら、6・3制を改める提言ぐらいしてはじめて「戦後レジームからの脱却」と呼べよう。しかし最初から学制改革に手をつけるつもりがなかったことは、3月の段階で示した「論点」を見ても分かる。委員から積極的な見直し論が出なかったら、というのは隠れみのにすぎない。

 代わりに出してくる目玉が小中一貫教育の制度化であることも、想定の範囲内だった。しかし中等教育学校と同様、実態として行われている一貫校を追認するものでしかない。しかも実施自治体から「義務教育学校」(仮称)の創設を要望されながら、民主政権下の2012年7月に中央教育審議会の作業部会が制度化見送りを結論づけていたことを忘れてはいけない。その時に「現行制度下でもだいたいのことはできる」と主張していた人が今回は一転して制度化の旗を振っているのは、理解に苦しむ。

 「実践的な職業教育を行う高等教育機関」は確かに成長戦略としても、社会人の学び直しが要請されることからも意義はあろう。しかし、これも実際には11年1月の中教審答申にあった「職業実践的な教育に特化した枠組み」の再掲でしかない。提言は結局実現せず、今年度から専門学校の「職業専門実践課程」に姿を変えている。それでも新しい学校種の創設にこだわるのは、1条校化して国から助成金を流そうという意図があることは明らかだ。

 評価すべき点があるとするなら、「所得連動返還型奨学金の充実」くらいだろうか。12年度から年収300万円になるまで返還が猶予されることになったものの、300万を1円でも超えた段階で全額返還となる「1かゼロか」の不十分なスタートだった。有識者検討会での審議も進んでおり、ぜひ年収に応じた返還額の設定や、どうしても返せない人には一定期間で返還を打ち切る「徳政令」も実現してほしい。

 教育財源確保に関するくだりは、もろ刃の剣ではないか。苦学経験を持つ下村博文文部科学相が教育投資の充実を訴え、幼児教育や高校はおろか大学まで無償化したい考えを表明しているのは大いに共感できる。しかし独自財源の確保にまで踏み込むのは、それまでは予算が拡充できない危険性も伴う。現に第5次提言では「安定的な財源を確保しつつ」という一文が入っている。「社会総がかり」という言葉は心地いいが、裏を返せば政権は第一義的には責任を持たないということでもある。

 実行会議はこれで実質的な審議を終えるようである。一連の過程で明らかになったのは、教育改革に対する安倍晋三首相の無関心ぶりではなかったか。これで「教育再生」に着手できたと胸を張られては、いつまでたっても疲弊した教育現場は真に再生できない。「改正教育基本法の趣旨」を盾にカネの掛からない政権の意向ばかり押し付けられては、むしろ将来に禍根を残そう。

【関連本社配信記事】
「6・3・3制」見直しは見送りへ 学制改革が議論される背景は
(THE PAGE 2014.6.6)
なぜ「小中一貫教育学校」創設を目指すのか 教育再生会議が提言(同 2014.6.12)
「職業高等教育機関」って何? 教育再生実行会議が創設提言へ
(同 2014.6.25)
学制改革の提言は見送りの公算 教育再生実行会議‐渡辺敦司‐
(ベネッセ教育情報サイト 2014.6.18)
「小中一貫教育学校」なぜ必要?‐渡辺敦司‐
同 2014.7.4)

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