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2016年1月30日 (土)

残念な複数回先送り 新テストの“入試接続”依存

 文部科学省の高大接続システム改革会議に、「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)の複数回実施を先送りする案が示された。新テストをめぐっては技術的な問題が解決されるまでは2014年12月の中央教育審議会答申から後退しても構わない、というのが本社の主張だから、それ自体を否定するものでは決してない。しかし論点メモ(案)が、多肢選択式と記述式を別日程とすることで「複数回実施の議論の狙いが相当程度実現すると考えられる」としていることには、強い違和感を覚える。

 答申では「一度限りの一斉受験」を批判した上で、「大学入学希望者に挑戦の機会を与えるとともに、資格試験的利用を促進する観点から、年複数回実施する」としていた。挑戦の機会が1回だけではないところに、一発勝負を改める意義がある。

 一方、多肢選択式と記述式は、あくまでセットとして知識・技能と思考力・判断力・表現力を「総合的」に評価するためのツールだ。別日程にしたとしても、「一度限りの一斉受験」であることに変わりはない。「複数回実施の議論の狙い」とは全然違う。

 一発勝負の容認は、「入試接続」への依存をますます強めることになりはしまいか。実はそれこそ深刻な問題だ。

 「入試」だけに依存するのではなく、大学改革と教育改革、そして「入学者選抜」と一体で改革することこそ、高大接続改革の本丸である。テストの複数回実施には、一発勝負の入試を相対化する意義もあったはずだ。

 高校関係者の多くには「高校教育がテスト対策漬けになる」として、複数回実施に反対する向きがある。しかし本来、テスト対策が高校教育なのか。学力の3要素に従って「生きる力」を育み、「国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと」(学校教育法)ことこそ高校の目標のはずだ。現実に入試対策が求められるとしても、それは高校教育の本務ではない。

 進路実現に努力する生徒を支援することは当然あっていい。しかしテスト手取り足取りテスト対策を指導するばかりか、入試を考慮してカリキュラムを編成するなどというのが、本来の高校教育なのか。高大接続改革を機に関係者は本気で反省すべきなのに、そんな気配は一向に感じられない。

 覚え込ませることは徹底的に覚え込ませた後は、アクティブ・ラーニング(AL)によって汎用的な資質・能力を育成しつつ知識・技能の定着を図り、それが結果的に生徒の進路実現にも資する――というのが、今後求められる高校教育の姿ではないだろうか。

 返す返すも残念なのは、高大接続改革論議に包摂される格好で、中教審高校教育部会における高校教育の「コア」論議が中途半端になってしまったことだ。もし学力の3要素における高校教育のコアとは何かの議論が突き詰められていれば、必履修教科・科目の内容も絞れていたであろう。共通テストでは、まずそこを「共通」に問えばいい。プラスアルファの部分は、個別試験も含めた別の選抜資料を用意すればいいだけの話だ。そういう制度設計もできたろう。

 システム会議は、あくまで答申を受けて、改革内容を具体化するためのものである。具体化には新テストの制度設計も含まれるのは当然だが、かえって「入試」の在り方ばかりに焦点を当ててしまっては、改革の目指してきた方向に逆行してしまう。

 いかにも役所的な言い訳は、かえって世間の誤った認識を補強してしまう。「今は技術的にできないから、申し訳ないけれども先送りします」と、正直に言えばいい。それだけ困難な課題に挑戦し、一歩でも前進しなければ日本の将来さえ危うい、というのが高大接続改革の基調にあったはずだ。その本義を常に強調しなければ、依然として一度限りの「入試」に拘泥する風潮を助長してしまう。最終報告では、くれぐれも正しいメッセージを送るように留意されたい。

【過去の社説】
高大接続テスト 先送りでも済まない「全入時代」の入学者選抜 (2010.11.25)
大学入試の抜本改革はセンター試験の廃止から(2011.1.16)
「終焉」した大学入試に対応が急務だ(2012.2.11)
大学改革実行プラン 「衝撃」は軽視できない(2012.6.8)
高大接続諮問 受験競争が無になる大改革だ(2012.9.2)
実行会議4次提言 半年遅らせただけの「大改革」論議(2013.11.2)
大学入試改革 「人物本位」は誤解を招く(2013.11.9)
大学入試改革 各方面で「覚悟」を(2013.11.21)
「発展レベル」テスト まずは必要性と緊急性の共通認識を(2014.6.21)
〔戦後100年へ③〕高大接続改革 「入試」から決別する時だ
(2015.1.4)
「基礎学テ」をセ試改編の「高大接続テスト」に(2015.7.3)
高大接続改革 あえてスケジュールにこだわれ(2015.12.30)

【関連本社配信記事】
「高大接続テスト」はどうなったの?(ベネッセ教育情報サイト 2010.12.2)
「高大接続テスト」は「入試」ではない!?同 2010.12.16)
1点刻みの「入試」は不要に? 全入時代の大学入学(同 2010.12.22)
「21世紀型」大学入試が世界の潮流に!?(ベネッセ教育情報サイト 2012.1.16)
「学生に勉強させる」大学に 中教審が提言(同 2012.5.10)
いずれはセンター試験の存廃も課題に!?(同 2012.5.24)
入試に依存した高校教育は衰退する―「高大接続テスト」提唱者・佐々木隆生氏に聞く―(月刊高校教育2012年6月号
大学入試を大改革へ……「一発勝負」「1点刻み」なくなる!?(ベネッセ教育情報サイト 2012.7.5)
教えて!「中教審に高大接続の新部会」
(キャリアガイダンス.net 2012.8.29)
大学入試、わずか1年で「大改革」を提案?(ベネッセ教育情報サイト 2012.9.13)

センター試験はどうなる? 大学入試の「大改革」検討(同 2012.11.1)
2013年の大学入試「大改革」はどうなる‐渡辺敦司‐(同 2013.1.7)
高校版「全国学力テスト」を大学入試にも活用?-渡辺敦司-(同 2013.2.7)
教えて!「センター試験が廃止される?」(キャリアガイダンス.net 2013.6.18)
センター試験「廃止」は本当か‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2013.6.27)
入試以外でも変革を……必要な大学と高校の「教育」改革‐渡辺敦司‐(同 2013.10.6)
教えて!「大学入試は今後どうなる?(第4次提言を受けて)」?」(キャリアガイダンス.net 2013.11.19)
大学入試の「1点刻み」見直し、なぜ必要? ‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2013.12.11)
東大の推薦入試は「教育再生実行会議」の先取り? ‐渡辺敦司‐(同 2014.2.26)
教えて!「達成度テストって何?」(キャリアガイダンス.net 2014.3.19)
2021年度からの「発展レベル」テスト まだ姿は見えず‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2014.7.9)
「発展レベル」テスト、勉強の姿勢も変える必要‐渡辺敦司‐(同 2014.7.11)
大学入試改革は高校・大学の「教育」を変えるため‐渡辺敦司‐(同 2014.11.14)
教えて!「いつからどんな? 二つの新たな学力テスト」(キャリアガイダンス.net 2014.11.19)
大学入試が「公平」でなくなる!?-渡辺敦司-(ベネッセ教育情報サイト 2014.11.21)
なぜ国は入試改革を急ぐのか‐渡辺敦司‐(同 2014.12.5)
「新テスト」検討上の課題指摘 大学入試センターが「専門的見地」からシンポ(
内外教育2014.12.9)
大学教育の改革、入試改革より早く進む?-渡辺敦司-(ベネッセ教育情報サイト 2014.12.26)
中教審で何が議論され、何が議論されなかったのか(月刊高校教育2015.年2月号
2016年度には「新テスト」の作問イメージ 文科省が実行プラン‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2015.1.28)
京大の「特色入試」に見る国の「高大接続」改革-渡辺敦司-(同 2015.2.4)
教えて!「大学の『個別』入試はどうなる?」(キャリアガイダンス.net 2015.2.17)
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