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2016年4月 5日 (火)

高等教育戦略なき安倍政権に「給付奨学金」ができるか

 大学生の奨学金問題が、与野党攻防の論点として急浮上してきた。マスコミは安倍晋三首相が予算成立後の記者会見で給付型奨学金の創設方針を表明したと伝え、与党の提言に対しても検討したい意向を返したという。いかにも首相自身が前向きな印象を与えかねない報道ぶりだが、各紙の記事を比べ読みして生資料に当たり、少し検索して調べれば、誰にでも真相が分かる。

 首相が会見で言及したのは「まごころ奨学金」の話にすぎない。犯罪被害で保護者を失った子どもに向け、振り込め詐欺被害で返金できなかった残余金を原資として、大学生の場合は月8万円を貸与するなどとした預保納付金支援事業のことだ。それも現状は卒業後の返還に尻込みし、3年目の2015年度でも200~300人の想定に対して60人しか利用していない。これを給付型に変更することは、既定路線だった。しかも月5万円などに下げて、である。

 安倍首相が会見で言った「本当に厳しい状況にある子どもたち」に差し伸べる手とは、同奨学金のことを指す。これを除けば、後の奨学金政策は「有利子から無利子へ」の拡充と、より柔軟な所得連動返還型制度の創設という、これまた既定路線の話しか残らない。要するに、新しいことは何も言っていない。

 与党はどうか。自民党の教育再生実行本部第6次提言の中に「給付型奨学金の創設など」という文言が、確かにある。ただ、そもそも提言に掲げられたメニュー自体が概算要求の粗々の原案みたいなもので、財源の裏付けがなければ実行できないものばかりだ。

 とりわけ給付型の創設に関しては、安倍首相や菅義偉官房長官が「対象者をどう選定するかなどの課題がある」と口をそろえているのが、いかにも官僚的答弁として利いている。

 根本的な問題は、安倍政権が奨学金、もっと言えば高等教育進学を、学生個人の便益としか考えていないことだ。もちろん大学は義務教育ではないし、卒業後は高卒者より高い収入が期待できるから受益者はあくまで個人だ、と突っぱねることはできよう。果たして麻生太郎財務相は1月の参院決算委で「(給付型奨学金は)単なる財政支出だ」と言い放っている。しかし高等教育人材の増加が社会全体にとっても便益をもたらしていることは、教育経済学者がお好きなエビデンス(科学的根拠)で示されている。

 2人に1人を超えるまで大学進学率が上昇したのは、政府が誘導したからでも何でもなく、ひとえに家計負担に頼ってきたからだ。国内総生産(GDP)に占める高等教育費の政府支出割合が経済協力開発機構(OECD)平均に比べずっと低いことは、関心のある人には広く知られるようになった。それなのに安倍政権は教育再生を内閣の最重要課題だと言う割に、予算面でそれを表そうとは決してしない。 

 各国が厳しい財政状況にあっても浮沈を懸けて高等教育予算を増やそうと努力している中、日本ではその兆しすら見えない。成長戦略と称して目先の景気回復に役立ちそうな研究には投資しようとしても、21世紀に対応した高等教育人材が将来どのくらい必要で、それによって成長や発展がどのくらい見込めるかといった戦略を立てようという発想は、全くない。

 自民党の提言には「成長戦略に資する高等教育の実現」という一文がある。さすがだと思って中身を見たら、成長分野への専門職大学院の活用と、「専門的、実践的な職業人養成を行う新たな高等教育機関」の話に終始している。特に後者は、都道府県所管の専門学校に国庫補助をバラマこうという不純な動機が当初から見え隠れしていたものだ。

 18歳選挙権を目前にして「必要な政策は打っていますよ」というポーズを取ろうというのは、きわめて分かりやすい。しかし羊頭狗肉ないしは竜頭蛇尾の政策を並べたところで単なる選挙戦術でしかなく、本当に有効な施策とは言えない。もちろん、それは野党にも問われる。見せかけの公約に騙されないためにも、主権者教育が急務だ――と言ったら皮肉に過ぎようか。

 

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