« 【池上鐘音】密教指導要領 | トップページ | 指導要領審議まとめ せめて裁量拡大と脱知識偏重を »

2016年9月 5日 (月)

高大接続改革 できることだけ着実に進めよ

 スケジュールに迫られて、やっと現実的になってきたようだ。文部科学省が公表した「高大接続改革の進捗(しんちょく)状況について」のことである。

 高等学校基礎学力テストは現時点でCBT(コンピューター利用型テスト)・IRT(項目反応理論)方式を見送ってPBT(紙のテスト)を基本とする。大学入学者学力評価テストの記述式問題は1月に実施し、大学側が受験生について採点する案も検討する――。妥当なところだろう。

 学力評価テストの英語4技能は、将来的に民間の資格・検定試験の活用に委ねることを表明した。中央教育審議会と、それに続く高大接続システム改革会議の議論で「合教科・科目型」「総合型」などが迷走する中で唯一、現実的だったのが資格・検定の活用だった。分かっていたこととはいえ、断言するのにここまで掛かるというのが今回の改革論議を象徴している。

 高大接続改革をめぐる本社の解説と主張は、『教育と医学』2月号の所論でほぼ尽きている。その上で指摘しておきたいのは、今回の改革論議が理念先行で走り過ぎ、現実論がおろそかだったことである。「短文記述式」のように、現実論が理念をねじ曲げた感さえある。

 単純に考えよう。高大接続改革の理念は細部に異論はあっても、総論でその意気や良し。そのために必要なテスト開発は、いくらでもやればいい。できるものから、着実に進めればいい。しかし開発できっこないもの、開発が困難なものに期待を掛ける余裕はない。

 焦点はマークシート式問題の改善かもしれない。全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題がそうだったように、うまくすれば受験生や学校現場に対する強力なメッセージになる。

 出題傾向が変わって「試験対策ができない」と批判されても、文句は受け付けるべきではない。そもそも「対策」で1点刻みの点数を少しでもアップさせれば有利になるようなテストは、高大接続改革の理念に反する。

 ただし、それも試験としての妥当性が保証されていることが前提だ。その検証の方に、エネルギーを優先させるべきだったのかもしれない。何より個別選抜改革の方が本丸だったのに、新テストに合わせて2020年度に先送りしたのはいただけない。

 「改革は不可欠だ」という関係者の総論賛成を取り付けた点で、中教審は成功した。後は、その理念を着実に具体化していくことである。併せて、本当に高校と大学を「学力の3要素」でつなぐことが妥当かどうかなど、各論についても検証が求められよう。

 本社が先の所論で「10年後」と打ったのは、そういうことである。理想形にたどり着くには、少なくとも10年はかかるだろう。「次期学習指導要領下」でさえ拙速だ。だからといって「拙速はいけない」と、何も改革しなくていいわけではない。出題傾向が変わるだけでも、大きな改革だ。

 「車の両輪」改革のもう一方を担う教育課程改革でも、あれほど動かなかった高校現場が動き出したのはアクティブ・ラーニング(AL)が入学者選抜に直結しそうだと踏んだからである。授業を通して、選抜を通して、これからの時代に生きる者にはどういう資質・能力が求められるのかを伝える改革に、是非ともしたい。

【過去の社説】
高大接続テスト 先送りでも済まない「全入時代」の入学者選抜 (2010.11.25)
大学入試の抜本改革はセンター試験の廃止から(2011.1.16)
「終焉」した大学入試に対応が急務だ(2012.2.11)
大学改革実行プラン 「衝撃」は軽視できない(2012.6.8)
高大接続諮問 受験競争が無になる大改革だ(2012.9.2)
実行会議4次提言 半年遅らせただけの「大改革」論議(2013.11.2)
大学入試改革 「人物本位」は誤解を招く(2013.11.9)
大学入試改革 各方面で「覚悟」を(2013.11.21)
「発展レベル」テスト まずは必要性と緊急性の共通認識を(2014.6.21)
〔戦後100年へ③〕高大接続改革 「入試」から決別する時だ
(2015.1.4)
「基礎学テ」をセ試改編の「高大接続テスト」に(2015.7.3)
高大接続改革 あえてスケジュールにこだわれ(2015.12.30)
残念な複数回先送り 新テストの“入試接続”依存
2016.1.30)

【関連本社配信記事】
「高大接続テスト」はどうなったの?(ベネッセ教育情報サイト 2010.12.2)
「高大接続テスト」は「入試」ではない!?同 2010.12.16)
1点刻みの「入試」は不要に? 全入時代の大学入学(同 2010.12.22)
「21世紀型」大学入試が世界の潮流に!?(ベネッセ教育情報サイト 2012.1.16)
「学生に勉強させる」大学に 中教審が提言(同 2012.5.10)
いずれはセンター試験の存廃も課題に!?(同 2012.5.24)
入試に依存した高校教育は衰退する―「高大接続テスト」提唱者・佐々木隆生氏に聞く―(月刊高校教育2012年6月号
大学入試を大改革へ……「一発勝負」「1点刻み」なくなる!?(ベネッセ教育情報サイト 2012.7.5)
教えて!「中教審に高大接続の新部会」
(キャリアガイダンス.net 2012.8.29)
大学入試、わずか1年で「大改革」を提案?(ベネッセ教育情報サイト 2012.9.13)

センター試験はどうなる? 大学入試の「大改革」検討(同 2012.11.1)
2013年の大学入試「大改革」はどうなる‐渡辺敦司‐(同 2013.1.7)
高校版「全国学力テスト」を大学入試にも活用?-渡辺敦司-(同 2013.2.7)
教えて!「センター試験が廃止される?」(キャリアガイダンス.net 2013.6.18)
センター試験「廃止」は本当か‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2013.6.27)
入試以外でも変革を……必要な大学と高校の「教育」改革‐渡辺敦司‐(同 2013.10.6)
教えて!「大学入試は今後どうなる?(第4次提言を受けて)」?」(キャリアガイダンス.net 2013.11.19)
大学入試の「1点刻み」見直し、なぜ必要? ‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2013.12.11)
東大の推薦入試は「教育再生実行会議」の先取り? ‐渡辺敦司‐(同 2014.2.26)
教えて!「達成度テストって何?」(キャリアガイダンス.net 2014.3.19)
2021年度からの「発展レベル」テスト まだ姿は見えず‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2014.7.9)
「発展レベル」テスト、勉強の姿勢も変える必要‐渡辺敦司‐(同 2014.7.11)
大学入試改革は高校・大学の「教育」を変えるため‐渡辺敦司‐(同 2014.11.14)
教えて!「いつからどんな? 二つの新たな学力テスト」(キャリアガイダンス.net 2014.11.19)
大学入試が「公平」でなくなる!?-渡辺敦司-(ベネッセ教育情報サイト 2014.11.21)
なぜ国は入試改革を急ぐのか‐渡辺敦司‐(同 2014.12.5)
「新テスト」検討上の課題指摘 大学入試センターが「専門的見地」からシンポ(
内外教育2014.12.9)
大学教育の改革、入試改革より早く進む?-渡辺敦司-(ベネッセ教育情報サイト 2014.12.26)
中教審で何が議論され、何が議論されなかったのか(月刊高校教育2015.年2月号
2016年度には「新テスト」の作問イメージ 文科省が実行プラン‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2015.1.28)
京大の「特色入試」に見る国の「高大接続」改革-渡辺敦司-(同 2015.2.4)
教えて!「大学の『個別』入試はどうなる?」(キャリアガイダンス.net 2015.2.17)
大学入学の「新テスト」、夏までに方向性-渡辺敦司-(ベネッセ教育情報サイト 2015.4.1)
大学入試、既に変わりつつある? 「高大接続」先取り‐渡辺敦司‐(同 2015.5.27)
重要なのは「主体性」の育成 ●安西祐一郎氏が講演─教育EXPO(上)(内外教育 2015.6.23
新テストは「軽量化」が必要 ●高大接続改革セミナーで─教育EXPO(下)(同 2015.7.3
大学入学の新テストは「2段構え」導入 今の中1と小3で‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2015.7.14)
大学の教育・入試、変化は意外に早い? 組織運営の見直しが急務‐渡辺敦司‐(同 2015.7.29)
多面的入試は「学力不問」じゃない! 東大・京大を例に‐渡辺敦司‐(同 2015.8.19)
次期指導要領、高校の科目は新テストも意識‐渡辺敦司‐(同 2015.8.26)
教えて!「二つの新テストの今後」(キャリアガイダンス.net 2015.9.29)
「基礎学力テスト」、大学入試に使えるのは今の小3から!?‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2015.9.9)
「教科を超えた力」が社会や進学でも不可欠に……?‐渡辺敦司‐(同 2015.9.11)
まだまだ大きく変わる? 国公立大学の入試‐渡辺敦司‐(同 2015.10.2)
あすの教育 荒井克弘大学入試センター名誉教授に聞く 新テストは学力調査と入学試験を混同(内外教育 
2015.10.6
あすの教育 佐々木隆生北星学園大学教授に聞く 関係者が対案持ち寄り対話を(同 2015.10.27

教えて!「どうなる国立大学の推薦・AO入試」(キャリアガイダンス.net 2015.11.24)
いまだ見えない「新テスト」問題のイメージ‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2015.11.25)
東大の推薦にみる入試改革の「公平性」‐渡辺敦司‐(同 2015.11.27)
新テスト「完成形」は新課程から? それまでは活用力重視へ‐渡辺敦司‐(同 2015.12.4)
【特別インタビュー】二つの新テストのゆくえ/安西祐一郎(
月刊高校教育2016年1月号
入試改革で新課程の高校科目を先取り!?‐渡辺敦司‐(2016.12.11)
教えて!「見えてきた?新テストの試験問題」(キャリアガイダンス.net 2015.12.24)
2016年の教育、新テストと次期指導要領の姿いよいよ‐渡辺敦司‐(ベネッセ教育情報サイト 2016.1.8)
大学入試・教育改革と「18歳人口」の深いカンケイ‐渡辺敦司‐(同 2016.1.13)
センター試験の後継テスト、リスニングどころじゃない「4技能」‐渡辺敦司‐(同 2016.1.15)
全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の英語から大学入試「新テスト」へ‐渡辺敦司‐(同 2016.1.20)

「十年後」に向け混迷に終止符を(教育と医学 2016.2月号
入試批判には依然「紋切型」も ●センター試験、新テストめぐりシンポ(内外教育 2016.1.29付
教えて! 「センター試験って何だったの?」(キャリアガイダンス.net 2016.1.26)
大学入試の英語、2020年度から「話す」「書く」も対象に(ベネッセ教育情報サイト 2016.2.3)
新テスト、なぜ次々と軌道修正?(同 2016.2.19)
東大の推薦入試 「ハードル高すぎ」の意味(同 2016.3.4)
いつでも、どこでも? 高校基礎学力テスト(同 2016.2.16)
「推薦・AO」2020年度入試まで存続も…… 重要なのは大学入学後!(同 2016.3.18)
教育政策動向ウォッチ〈1〉新テスト制度設計、迷走・後退の要因は…?(月刊高校教育 2016年4月号)
「人工知能」は人間の答案を採点できるのか?
(同 2016.4.1)
中2以降の大学入試と教育はこうなる……?(ベネッセ教育情報サイト 2016.4.6)
英語能力テストの大学入試活用、まだまだ進む? (同 2016.4.15)
大学、真面目に出席するだけじゃダメ? もっと予習・復習が必要(同 2016.4.27)
教育News 入学者選抜で「学力の3要素」後押しする高大接続改革に(新教育課程ライブラリ Vol.4
今月のキーワード 「高大接続システム改革」(教育図書出版会 2016.5.6)
SSHやSGHが大学入試改革などの先導役に!?(ベネッセ教育情報サイト 2016.5.11)
数学+理科=「理数探究」 高校の新科目、新テストでも出題(同 2016.5.25)
特別企画2 高大接続システム改革会議「最終報告」を読む―先行する「大学改革」にも注目を(月刊高校教育 2016年6月号
センター試験にも多くの意義 ●東北大が大学入試めぐりフォーラム(内外教育 2016.6.3付
新テスト「センター試験が変化」 ●河合塾シンポで文科省の前担当者が説明(同 2016.6.7付
「教育」としての入試改革を ●大学入試センター入研協の討論会で(同 2016.6.21付

中高生にとって「五輪」はスポーツだけではない! 「科学五輪」でチャンスも!?(ベネッセ教育情報サイト 2016.6.17) 
教育時事 見方・読み方 新テスト、どこまで後退?(SYNAPSE 2016年6・7月号

オープンキャンパスでは「大学改革」もチェック!(ベネッセ教育情報サイト 2016.7.22)
「科学の甲子園」は2017年3月! 教育改革でチャンスも広がる?(同 2016.7.29)

にほんブログ村 教育ブログ 教育論・教育問題へ

 ↑ランキングに参加しています。奇特な方はクリックしていただけると、本社が喜びます

|

« 【池上鐘音】密教指導要領 | トップページ | 指導要領審議まとめ せめて裁量拡大と脱知識偏重を »

社説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/506419/64156440

この記事へのトラックバック一覧です: 高大接続改革 できることだけ着実に進めよ:

« 【池上鐘音】密教指導要領 | トップページ | 指導要領審議まとめ せめて裁量拡大と脱知識偏重を »