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2016年11月23日 (水)

「海洋教育」に対する別の違和感

 年末の中央教育審議会答申に向けて大詰めを迎えている次期学習指導要領の在り方について、8月の「審議のまとめ」から記述を充実させる項目として「海洋教育」が急浮上している。これに対して21日の教育課程部会では委員の奈須正裕・上智大学教授がカリキュラム論の立場から「強い違和感」を述べていたが、本社も別の角度から強い違和感を表明しておきたい。

 海洋教育は10月26日の同部会で、文部科学省事務局の報告に突如として出てきた。審議まとめに関して約1カ月にわたり行われたパブリックコメント(意見公募手続)で「個別の項目については、海洋教育、主権者として求められる力、特別支援教育、多様性と教育等に関する御意見が寄せられた」のだという。

 におうなと思っていたら、果たして11月14日の教育課程企画特別部会に出された1枚紙の「答申に向けて記述の充実を図る事項(案)」に「教科横断的な視点に基づく資質・能力の育成」として、いわゆる主権者教育の次に海洋教育が入っていた。

 パブコメの資料には、▽多数の島から構成され、四面を海に囲まれている海洋国家である我が国の教育においては、海運など海事関連の産業が国民生活と日本経済を根底で支える重要な役割を担っていることが正確に理解されるようにする必要がある▽グローバル化が進む社会という観点から、領土や国土に関連しての領海・EEZ(編注=排他的経済水域)など海洋の重要性や意義の理解に関する内容が盛り込まれることが必要である――とある。

 奈須教授の違和感とは、これが「資質・能力」として挙げられていることだった。いずれも「コンテンツ」(学習内容)に属する話であり、これまで社会科等で取り上げられていたものでもある。教科横断的な視点として取り上げては、カリキュラムや学力、資質・能力の構造が崩れてしまう。それよりは、審議まとめにある「現代的な諸課題」として「グローバル化の中で多様性を尊重するとともに、現在まで受け継がれてきた我が国固有の領土や歴史について理解し、伝統や文化を尊重しつつ、多様な他者と協働しながら目標に向かって挑戦する力」の方がよほど資質・能力論的だしダイナミックだ――というのが、奈須教授の指摘である。

 さすがは「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(2012年12月~14年3月)以来、改訂論議をリードしてきた専門家の卓見である。しかし学のないひねくれ者の本社としては、別の違和感を抱いている。

 パブコメにより一般国民の意見を取り入れて修正する、というのは公正で透明な行政運営としては誠に望ましい。ただ、特段の説明もなくパブコメで指摘されたからといっていそいそと盛り込むのは、出来レースと疑われても仕方なかろう。

 もちろん、意見を受け入れる土壌があったことは理解する。現行の政府「海洋基本計画には「学習指導要領を踏まえ、海洋に関する教育を充実させる」とあって、ご丁寧にも「必要に応じ学習指導要領における取扱いも含め、有効な方策を検討する」としている。しかし海洋基本法自体が07年4月の第1次安倍内閣下で成立し、現行計画が13年4月の第2次安倍内閣下で閣議決定された偶然を思うと、怪しくてたまらない。

 怪しいといえば、やはり第2次安倍内閣下の14年1月に突如として指導要領解説が「改訂」され、領土・領海教育が中学校社会科などに盛り込まれたことが思い起こされる。この時は下村博文・文部科学相(当時)の判断だったので、むしろ爽快なほどの政治的意図が感じられたものだった。

 控え目に言っても、学校現場で取り上げることが必須な〇〇(マルマル)教育をまた一つ増やすだけである。本来は必要な学校がカリキュラム・マネジメントにより創意工夫で行えばいいだけのものを、わざわざ特出しして入れようとするのはプログラミング教育よりたちが悪い。

 何より今回の改訂作業ではコンピテンシー・ベースの論議が中心で、コンテンツの議論はほとんどなされなかった。前者は前者で見識なのだが、学習内容の削減は行わないと早々に表明した割には後から余計なものが付け加わるのには、ますます違和感を抱く。もちろんフリーハンドである答申後の告示文編集作業で強いてたくし込ませるよりはよほど「透明」だが、「公正」だとはとても思えない。

 怪しさついでに付言すれば、以前から海洋教育に関する企画が某専門紙で展開されている。事情が推察できるだけに批判するつもりはないが、エネルギー教育と同じにおいを感じてしまうのは自然だろう。そういえばエネルギー教育も、東日本大震災から5年を過ぎて徐々に“解禁”されてきた。ますます妙な空気が漂ってきている。

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