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2016年12月 7日 (水)

TIMSS・PISA(上)理数系 “教科の外から出ない”改革?

 代表的な二つの国際学力調査、TIMSS(国際教育到達度評価学会=IEA=の「国際数学・理科教育動向調査」)とPISA(経済協力開発機構=OECD=の「生徒の学習到達度調査」)の2015年結果が、相次いで発表された。6日の中央教育審議会教育課程企画特別部会はPISA解禁に合わせて19時からの開会となったが、30分前の開場と同時に配られた資料に「ポイント」が入っていたのはフライングではないのか――という難癖はおいておこう。

 理数系(TIMSSは算数・数学と理科、PISAは数学的リテラシーと科学的リテラシー)に関して文部科学省は、現行学習指導要領で授業時数や学習内容を大幅に増やしたため、ともに前回(各11年、12年)に比べ改善したとしている。しかし、手放しで喜んでいいのか。PISAの読解力に課題があることは明らかだが、調査結果をどう評価するか、われわれ自身の読解力も問われよう。

 学校で学んだ知識・技能を測るTIMSSの得点は、いずれも前回より統計的に有意な上昇となっている。文科省が言うように、指導要領改訂の効果があったと認めてよい。実社会の課題に活用できる力を問うPISAも数学が前回の参加国中7位から5位(OECD加盟国中2位から1位)、科学が4位から2位(同いずれも1位)に上昇した。

 ただしPISAの報告書や要約を読むと、意外なことが書いてある。数学は比較可能な03年以降、科学は同06年以降、得点差に統計的有意差はないというのだ。03年の「PISAショック」はもとより、06年の結果も、文科省は「もはや日本は世界トップクラスではない」根拠にしたのではなかったのか。

 文科省が挙げるもう一つの改善理由が、質問紙調査の結果だ。確かにTIMSSもPISAも、国際平均より依然低いものの「学習が楽しい」「将来に役に立つ」という回答が増加しているのは「改善」と言えなくもない。

 しかしOECDの説明を聞くと、見方が少し変わってくる。日本は科学の成績が高いにもかかわらず、学習を楽しんでいる度合いも、将来の職業につなげようという意欲も低い。

 ここから何を読み取るか。日本の生徒は、あくまで授業を「勉強」、あるいは良い成績を取る対象としか捉えておらず、社会につなげようという意識が薄い――もっと言えば、社会とは関係のないものと思っていないだろうか。

 学習の生産性という分析も興味深い。日本は理科の学習時間が比較的短いにもかかわらず、PISAで好成績を収めている「生産性の高い」国だ。確かに文科省が説明するように、授業では観察・実験の機会は増えただろうし、OECDもその点を評価する。しかし、それが肝心の生徒に伝わっておらず、単なるテストのための勉強のままだとしたら、どうなるのか。

 教育改革に関しては昔からよく「教室の戸で止まっている」というような言い方がされてきた。実際の授業や教員に反映していない、という例えだ。それに倣えば、教科の学習がいつまでも教科の外に出ない、もっと言えばペーパーテストの紙の上に閉じこもったままなのではないか。

 理科の学習は、職業に直結するだけではない。主権者として社会の課題を科学的な知識や思考力を基に判断し、意思決定するためにも不可欠だ。あえて例を挙げるなら、いくら放射線教育を強化したとしても、原発避難者に対する偏見がなくならなかったり、立地県以外に原発再稼働に対する関心が薄かったりしていては、何にもならない。

 とかく日本ではテストといえば、少しでも高い点数が取れればいい、順位は一つでも上の方がいい、と考えがちになる。しかし、両者が「テスト」でなく「調査」であることは、全国学力・学習状況調査と同じだ。とりわけPISAは国際学力コンテストではあり得ず、結果を科学的根拠(エビデンス)として各国の教育政策に反映させることを目的としている。そこから読み取るべき課題を読み取らずに「改善」を喜んでいては、「社会に開かれた教育課程」の行く手が阻まれることにならないか。6日の特別部会で次期学習指導要領の答申案が示されただけに、ますます心配になる。

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