2021年度政府予算案をめぐる閣僚折衝で、公立小学校の全学年を5年かけて35人学級とすることで合意した。学級編制基準の本格的な引き下げは40年ぶりであり、画期的なことは間違いない。しかし、手放しで喜んではいられない。効果が限定的であるばかりでなく、遅すぎたと評せざるを得ないからだ。
今回の少人数学級化は、新型コロナウイルス感染症の余波で降ってわいたような話だった。だから閣僚折衝直前まで予断が許せなかったし、正直に言って本社は実現するとみていなかった。
萩生田光一文部科学相は30人学級を求めていたが、もともとが吹っ掛けすぎだったろう。40人学級の維持を主張する財務省との「痛み分け」という見方もあるが、そこは文科省の勝ちを認めてよい。
問題は、加配定数から基礎定数への振り替えを認めたことだ。そもそも30人学級について文部科学省は、児童生徒数の自然減で10年たてば教職員数を純増せずに済むと主張して財務省との折衝に臨んだ。実はその点で、闘う前に敗北していたと言ったら厳しすぎようか。
実は小学校の学級の9割が、既に35人以下となっている。学区域の少子化に加え、民主党政権下で35人学級となった1年生や加配で実質35人が実現できる2年生はもとより他の学年でも自治体独自の引き下げが広がっている。1割台の学校を抱える東京都、愛知県、大阪府など大都市圏を除けば、あまり恩恵はない。むしろ加配の削減で、1校当たりの教員配置が減っては問題だ。
これが15年前に実現していれば、本社も無条件で評価したろう。しかし教職員定数改善計画は05年度に第7次計画が完成して以降、策定されていない。16年度教員勤務実態調査で小学校の3割、中学校の6割が過労死ラインを超えて働いていたのは、本格的な定数改善が放置されてきたツケだと言えよう。
1クラス当たりの児童生徒数が減れば確かにその分一人一人を見取る負担は減るが、1クラス分の授業や学級経営の負担が変わるわけではない。発達障害や日本語指導をはじめ児童生徒が多様化している上に、新学習指導要領で育成が求められる資質・能力は広がっている。むしろ1クラス丸ごと1人の教員が責任を持つ体制に、限界が来ているのではないか。大量退職・大量採用で急速に増加する若い教員には、ますます荷が重い。
もう一つの問題は、今回の概算要求が有識者会議等で何の検討もなく「事項要求」として行われたことだろう。中教審では依然として既定方針にのっとり、小学校への教科担任制導入を検討するばかりだった。財政負担を増やさずに定数改善を実現する、という文科省の弱気な姿勢が裏目に出たとも言える。
もっと大きな問題は、教職員定数の画期的な見直しが国民的論議もないまま実現してしまったことかもしれない。折しも新型コロナ対策で財政規律は緩みに緩み切っている。痛みを伴った教育環境の充実は未来への先行投資として必要だと本社は考えるが、その点があいまいなままでは学校現場だけが教育効果に対する結果責任を問われかねない。そうなれば、現場はますます苦境に陥る。
置き去りにされた中学校も含め、まだまだ定数改善の課題は山積している。中教審などでの本格的な審議を求めたいし、文科省には今後も単年度要求および策定後の第8次計画改定に努力するよう期待したい。

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