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2021年12月

2021年12月29日 (水)

【池上鐘音】「間違える」官邸と大学入試の実務

▼ちょうど千正康裕・千正組代表の『官邸は今日も間違える』(新潮選書)を読み始めた時分に、ニュースが流れてきた。大学入学共通テストの受験生でオミクロン株の濃厚接触者は追試に回るよう求めた文部科学省通知に対して、岸田首相が本試験の別室受験を含めて検討するよう指示したという。末松信介文部科学相は臨時の会見を開き、わずか3日での方針転換を表明。28日付で指示通り再通知された▼官邸主導の流れを作ったのは故橋本龍太郎氏や小泉純一郎氏が首相を務めた時代であり、背景には衆院での小選挙区制導入が背景にある――元厚労官僚である千正氏は同書で、こう指摘する。だから省庁の実務を考慮することなく、増加する無党派層の意向を優先して意思決定がなされるのだと▼すぐ思い起こしたのは、19日にオンラインで開催された座談会「大学入試におけるコロナ対策 令和3年度入試の舞台裏」だ。コロナ禍という未曽有の事態に接し、大学入試センターがかつての所属研究者だった大学教員5人に呼び掛けて2020年6月から4回にわたって情報交換を目的に行われた緊急オンラインフォーラム(非公開)を振り返った▼初の実施となった21年度共通テストは、臨時に第2日程を設ける異例の形態となった。それだけでも過重負担だが、第1日程を受けられなかった受験生は追試として第2日程を受けたため試験監督の緊張感は並大抵ではなかったという▼そもそも実務を担当する大学の教職員は、専門性の高い業務をギリギリの人数で回している。緊急時に試験監督を増員しようにも、近年増加する特任教員には依頼できない。特任以外の教員は高齢化していて、持病を抱える者が少なくないという▼任期中に成果を挙げた特任教員を本務教員に採用して新陳代謝を図るべきだ――というのが、昨今の大学改革が要請するところだ。しかし現実には高齢本務教員のクビをそうそう切れるわけもなく、若手はいつまでも不安定な特任から抜け出せない▼大学設置基準の弾力化と教養部廃止で入試問題を作成する能力のある教員が減っている問題は、かねて指摘されてきた。高大接続改革の必要性を受けて、各大学では研究機能も担うアドミッションセンターなどを設ける動きも広がっている。座談会に集まった研究者の多くも、そうした部署の所属だ▼22年度共通テストは本試験の日程が元に戻ったため、21年度に比べれば負担は少ない。20年度間に得られた教訓も生かされるだろうし、そのために座談会も開かれた。しかし、もともと弱っていた大学の組織的体力が首相指示一つで戻るわけもない。ましてや10兆円の大学ファンドが設けられたところで、ほとんどの大学にとって何も解決しない▼受験生は首相判断に快哉を叫んだろうが、入学後はぜひ大学の実態を自分の目で見つめるといい。事は自らの教育環境に関わる問題である。コロナ禍は、そうした日本中の構造的な問題を浮き彫りにしている。

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2021年12月26日 (日)

CSTIのWGパブコメ 5~15年後の教育へ意見を

 年末はニュースが多いせいか25日の段階ではまったく報道されなかったが、重要と思われる発表が24日にあった。総合科学技術・イノベーション会議(CSTI=システィー)教育・人材育成ワーキンググループ(作業部会、WG)の「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」中間まとめだ。

 同日から1月16日まで、意見募集(いわゆるパブリックコメント=パブコメ)が行われる。現場教員もぜひ読んで、意見を寄せてほしい。

 「中教審答申を読むのだって大変なのに、そんな暇はないよ」という声も聞こえてきそうだ。しかし中間まとめは「CSTI流」(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の合田哲雄審議官)だけあって文章ではなく、表紙や目次、メンバー名簿などを合わせて全35枚の概略図(いわゆるポンチ絵)をとじたものとなっているから一目で分かる。

 だからこそ現場目線で、内容を検証してほしい。政策パッケージは向こう5年程度に政府全体でどう政策を展開していくのか、具体的なロードマップの作成を目指している。しかもそこには、2027年の見込みだという「次期」学習指導要領改訂も視野に入っている。つまり政策パッケージに基づく新学習指導要領(2017年改訂)実現に向けた5年間の取り組みが次の改訂につながり、さらに10年間を方向付けることになるわけだ。ちなみに17年改訂の例から27年改訂を逆算すれば、22年度中には「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(12年12月~14年3月)のような中教審の論点整理を担う懇談会が発足することになろう。

 中間まとめでは次期改訂だけでなく、22年度実施予定の教員勤務実態調査の動きも見据えるとしている。学校の働き方改革をめぐっては業務の見直しばかりに注目が集まるが、教員と子どもの「時間」を左右するのは指導要領だ。時間、人材、財源といったリソース(資源)全体の確保や再配分を示すのも、政策パッケージの目的である。

 多忙化にあって「授業に専念したい」と思うのが、現場の本音であろう。しかし、その授業を規定する指導要領自体が実は過密になっていまいか。17年改訂では資質・能力の育成に重点を移し、そのためにも「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)の視点による授業改善を求めた。しかし早々に「学習内容は削減しない」と宣言してしまったために、コンテンツ(学習内容)とコンピテンシー(資質・能力)の関係性も問い直されないまま、引き続き習得・活用・探究が求められることになった。

 習得ということで言えば、高大接続改革の一環としての大学入学者選抜改革が「挫折」したことも大きい。高校現場は結局、入試対策として知識・技能の「習得」指導にきゅうきゅうとしたまま、「総合的な探究の時間」をはじめとした思考力・判断力・表現力等の育成に取り組まなければならなくなっている。

 一方で新指導要領の告示以降、教育現場での迷走をよそに安倍政権の下で経済産業省からの攻勢が強まってきた。単なる教材開発なら大いに歓迎すべきことなのだが、「未来の教室」路線は個別最適化はもとより不登校対策や校則見直しなど現場の痛いところを突いてくる。しかし初等中等教育で「OS(オペレーティング・システム)とも呼べる根本的な考え方から変えていく」(経済財政諮問会議の有識者懇談会「選択する未来2.0」中間報告、20年7月)ようなことをされては、たまらない。

 省庁間の角逐のみならず国内外も視野に方向性の合意点を見いだし、一致して政策展開しようというのがWGの肝である。だからこそ、現場の率直な意見を寄せるべきである。そうでないと今後15年にわたって、上からの「教育DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタルによる変革)」に振り回されることは必至だ。先行き不透明な社会に出ていく子どもの将来的な活躍も見据えつつ、教育界全体で合意を図っていきたい。

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