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2022年7月 9日 (土)

【池上鐘音】蝶々の因縁

▼NHK『映像の世紀 バタフライエフェクト』を毎週、興味深く視聴している。1995年に放送を開始した新シリーズで、一人ひとりのささやかな営みが連鎖して世界を動かしていく様子を世界中のアーカイブ(記録)映像で描くのだという▼回によっては、これを本当にバタフライ効果と言っていいのかと首をかしげることもある。しかし世の中の動きがすべて連関していて、見聞きしたものが大なり小なり意識ないしは無意識として残っていると考えれば納得できる▼仏教的には、重々無尽の縁起とでも訳せようか。ここで言う縁起は通俗的な験担ぎ・験直しのことではなく、原因(因)があって結果(縁)があるという論理学的な話である。あるいは複雑系と言い換えてもいい▼安倍晋三元首相が参院選の応援演説中、銃撃されて死去した。犯行現場の近鉄大和西大寺駅前は奈良競輪場の無料バスが発着し、犯人が住んだ最寄り駅には定宿がある個人的にもなじみの地だ。小学校も近いことに、戦慄がいや増す▼どんな政治家に対してであろうと、テロは決して許されない。何かと安倍政権を批判し続けてきた本社だが、報道の末端中の末端に携わる者として満腔の怒りを持って糾弾する▼現段階の供述によれば、政治的信条に対する恨みではないそうだ。安倍氏が「特定団体」とつながりがあると思い込んだというが、いかなる団体かは明らかにされていない▼今回の元首相襲撃を五・一五事件になぞらえる向きもあるが、犯人は元自衛官といっても任期3年だけであり青年将校とは比ぶべくもない。むしろ浅沼稲次郎社会党委員長を刺殺した山口二矢(おとや)に似ていようか▼真相は徐々に明らかになっていくのだろうが、現段階では格差・分断、フェイクニュースの香りがぷんぷんする。因果応報とは口が裂けても言わないが、新自由主義的なアベノミクスを進め国会審議を軽視してきた安倍政権とも無縁ではない▼安倍首相が目指してきたはずの「美しい国」が、バタフライ効果で今のような社会に帰結したとみるのは死者への冒涜(ぼうとく)だろうか。しかし国の借金が1000兆円を超えてもなお、防衛費拡充のための国債発行を安倍氏は主張していた。アベノミクスへの評価や憲法改正の是非を含め、有権者には冷静な投票行動が求められよう。追悼の意と「弔い合戦」は、まったく別の話である。

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【本社より】コラムタイトルの不足を一部修正しました。

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