「ごまの油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」とは、江戸幕府の勘定奉行が言った言葉とされる。教員の「働き方改革」は、もう絞っても出るものはない――。連休直前の4月28日に公表された2022年度教員勤務実態調査の速報値は、そう受け止めるべきだろう。
文部科学省のガイドラインで上限とされた月45時間を超えて残業をしていた公立学校の教員が、小学校で64.5%、中学校では77.1%もいた。月80時間の過労死ラインを超えて働く教員は、前回16年調査に比べれば減ったものの各14.2%、36.6%が残った。平均勤務時間は、いずれも約30分減っただけだ。
毎年行っている教育委員会対象の調査では、管理職から過少報告を求められたという報告が各地で相次いだ。今回の調査は教員個々の業務記録に基づくものだから、実態を正確に反映しているとみられる。
更なる働き方改革を推進するため、情報通信技術(ICT)の活用など「教育デジタルトランスフォーメーション(DX=デジタルによる変革)」に期待する向きもある。しかし、これにも限界がある。
そもそも現行学習指導要領は、三つの柱から成る資質・能力を「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)により育成することを目指している。授業の質の高度化にICTは不可欠だし、効率化にもつながる。ただし生み出された余裕は、質の高度化にこそ回されなければならない。ICTで勤務時間が抜本的に短縮できると考えるのは、大間違いだ。
まずは原点に返ろう。19年1月の中央教育審議会答申を審議していた段階では、そもそも個々の学校で管理職が勤務時間管理さえ行っていなかった。これでは、何がどこまで減らせるのかさえ議論できない。だからこそ、まずは上限を定めてそれを下回るよう働き方改革を進め、その上で改めて比較可能な勤務実態調査を行って、その結果を見て考えよう――ということだったはずだ。
「結果」は出た。小手先の「改革」ではどうしようもないほど、現場では勤務時間の抜本的抑制ができないことが明らかになった。後は、条件整備をどう考えるかだ。
ところで速報値公表の同日、財政制度等審議会財政制度分科会が開かれた。この中で財務省は、教育の質の向上ために▽少子化に伴う加配定数の合理化による財源を、教員の勤務環境改善のために活用することも考えられる▽教員の働き方改革が重要であり、踏み込んだ業務の適正化を行うべきだ――などの見解を示している。前者は質向上に逆行するものだし、後者はこの4年間やっても改善できなかったことだ。
もう、はっきり言うべきではないか。教育にカネをかけない限り、国際標準である資質・能力は育たない。人材育成に投資しない限り、人口減少下で生産性を上げることはできない。日本の将来は、それでもいいんですか――と。失われた30年を40年に延ばす余裕は、もうない。

にほんブログ村
↑ランキングに参加しています。奇特な方はクリックしていただけると、本社が喜びます
【自社広】
この本でCSTI政策パッケージと中教審特別部会のナゾがすべて分かる!
『学習指導要領「次期改訂」をどうする ―検証 教育課程改革―』
(ジダイ社、¥1870)、まさかの重版決定で好評発売中。
最近のコメント