最初から限界のあった教師確保「緊急提言」
中央教育審議会初等中等教育分科会「質の高い教師の確保特別部会」が28日、「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策(提言)~教師の専門性の向上と持続可能な教育環境の構築を目指して~」を公表した。報道各社も比較的大きく取り上げたから、「危機的状況にある」ことをアピールできただけでも出す意味はあったのかもしれない。
しかし中身はというと、学校現場の困難を解消するものには程遠い。そもそも、この時期に出す提言に期待するのも無理というものだ。
特別部会は6月の初会合で緊急提言を出すことで合意し、7月の第2回会合で論点の項目案に基づいて議論。案文が示されたのは28日の第3回会合が初めてで、貞広斎子部会長(千葉大学教授)と文部科学省事務局が本文を読み上げた開始後15分で承認。永岡桂子文部科学相に手渡した。
もちろん事前におおむね了承を得ていたのだろうが、とにかく公表を急いだ様子がうかがえる。明らかに、来年度概算要求に間に合わせるためだ。しかし、それ自体が「緊急」提言の限界でもある。
緊急提言は総論部分と三つの柱による各論部分から成るが、各論は▽「1.学校・教師が担う業務の適正化の一層の推進」と「2.学校における働き方改革の実効性の向上等」▽「3.持続可能な勤務環境整備等の支援の充実」――の前後半に分けられよう。前半は更なる働き方改革を求めるもので、後半は概算要求に向けた提言部分である。
更なる改革を掲げなければならなかったのも、他ならぬ概算要求のためだ。「今後も一層の努力を続けますから、概算を認めてください」という態度表明のためである。
その概算も現時点での文科省の判断、もっと言えば与党の意向を反映させたものにすぎないものになることは必定だ。中教審としては、まだ教員定数の在り方など本格的な議論が行われていない。そもそも今や同部会だけで済むフェーズではなく、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」をはじめ各部会・ワーキンググループ(WG)等と連動させた議論が必要になっている。学習指導要領の次期改訂も視野に入っているから、それだけのスパンで学校教育制度の在り方そのものまで再検討しなければならない大問題である。
そんな限界を差し引くと、後に残るのは「社会全体が一丸となって」だの「できることを直ちに取り組む」だのという空虚な意気込みだけだ。手渡し後の議論で「社会総がかり」という言葉を使った委員もいる。
どうも8月というと、先の戦争のことを連想してしまう。要するに現段階での「改革」は、精神論から一歩も抜け出せていない。先の委員は映画館で動画広告を打った自治体があることを紹介していたが、戦意高揚の臨時ニュースじゃあるまいに……と思ってしまった。
そもそも2022年度教員勤務実態調査で、ある意味の答えは出ている。19年1月の中教審答申に沿って「改革」を進めてきたにもかかわらず、抜本的な多忙化解消には至らなかった。現場が努力しても解消の道筋が付けられなかった、という客観的事実こそ重く受け止めるべきだ。「努力が足りなかった。いっそう奮闘せよ」では、兵たんも考慮せず最前線に泥沼の闘いを求めるのに等しい。好事例の横展開を勧めている暇があったら、早く部会横断の本格的な議論と、国としての戦略構築を急ぐべきである。
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