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2023年12月29日 (金)

養成・採用・研修・働き方 真の「一体改革」へ準備急げ

 年末恒例ではあるが、重要な統計が文部科学省から相次いで公表された。いずれも学校現場の深刻な実態を表している。

 22日に公表された公立学校教職員の人事行政状況調査は、何といっても精神疾患による病気休職者が注目点である。これまで0.5%台で推移してきたのに、2021年度は0.6%台、22年度は0.7%台に達した。もちろん氷山の一角で、背後には相当な「予備軍」がいるとみるべきだろう。

 実数で6539人の休職者に、代替教員が手当てされるわけではない。その分、他の教員にしわ寄せが来る。ますます現場は疲弊せざるを得ない。

 その一方で25日に公表された22年度採用試験の実施状況では、小学校の倍率が2.3倍と過去最低を更新した。採用区分を設けている62教委(道県と政令市の合同実施は1教委と数える)のうち1倍台は20教委、2倍台は27教委。既に4分の3が、質の確保に必要だとされる3倍の「危険水域」を下回っていることになる。

 いずれ大量退職が落ち着いて倍率が上がるという見方もある。しかし教職の「ブラック化」が認知されるに従って、優秀な学生はますます離れていくだろう。「魅力アピール」で済む問題ではない。たとえ強い教職志望を持って合格しても、2年以内に精神をすり減らして休職しては何にもならない。

 28日に公表された教委の働き方改革の取り組み状況を見れば、道半ばながら改善した項目は少なくない。しかし、しょせんは19年1月の中央教育審議会答申を受けた「過去」の対策をフォローアップしたにすぎない。現下の中教審「教師の確保特別部会」も緊急対策(8月)と称して既定路線の強化にひた走るばかりで、「次」の改革に向けた議論は遅々として進まない。

 唯一の希望は、「学校教育特別部会」の義務教育ワーキンググループ(WG)が28日に中間まとめを公表したことだ。ここでは他の部会等で行われている専門的検討との重複は避けながらも、「次期学習指導要領の改訂の検討」と一体になった学習基盤の検討・充実を打ち出している。ちなみに文科省の行政文書で27年以降と目される次期改訂を明記したのは、管見の限り初めてだ。

 そうであるなら、来秋にも諮問が見込まれる次期改訂と一体の改革構想を一刻も早く準備しなければならない。まずは義務WGの親部会が早急にまとめを行い、他の部会等の司令塔役を果たすことだ。

 そうでなければ、他の部会等はいつまでもダラダラと既定路線の延長線上で改革論議を続けることになる。典型的なのが、26日の教員養成部会だったろう。「優れた教師人材の確保に向けた奨学金返済支援の在り方」として、まずは教職大学院を優先する方向性が色濃く打ち出された。現実論としては、致し方ない面はあろう。しかし発表を聞いていると、どうにも楽観的かつ教員養成側の利益誘導のような主張が見て取れる。これも各部会等が「部分最適」な議論に終始しているからだろう。

 昔から教員の養成・採用・研修は「一体」で行うことが必要だとされてきた。しかし教員育成指標が導入されても結局は養成、採用、研修の各改革がバラバラに行われているだけではないか。いま必要なのは、指導要領と教室の在り方を含めたトータルな戦略の下で「全体最適」な諸改革を構想することである。

 そんな総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の提起があってから、1年半が過ぎた。遅くとも指導要領の改訂論議が正式に始まるまでに、大まかな道筋だけでも打ち出すことが求められる。それまでの「改革」は、つなぎにしか過ぎない。

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社説」カテゴリの記事

コメント

 comment欄ではお久しぶりです。
 私の前任校でも、新卒採用で初任者研修を受けていた職員が年度末に退職しました。年度途中の休職もありましたので、まさに典型的な例です。担任もしている初任者に対して、指導教官は副担任をしながら保護者対応などもなかりフォローし支えようとしていましたが、残念な結果となりました。
 結局、根本的な問題は「初任者研修という負担」を背負わせながら同時に「正担任」という大きな負担を強いられる現場における「人不足」だと考えています。
 若い人だけではありません。60歳の「定年」をすでに迎えている「再任用者」も賃金は7割に削減されつつ、学年主任や校務分掌の「主査」など(年齢による体力低下にも関わらず)フルに働かされる実態があり、それらを背景に私の身近な再任用者だけでも二人が心筋梗塞、一人が脳内出血で入院しました。
 私と同じ校務分掌で一緒に働いていた再任用者(分掌主査)も、年度途中から大きく体調を崩して退職。私は管理職に向かって「(残された自分も)これでは倒れてしまう」と声をあげましたが、なかなか有効な対応はとれませんでした。
 常々渡辺さんも強調しておられるように「根本的な対応策は定数改善しかない」。この点で県高等学校教職員組合の委員長も県教育長も考えは一致しているのですが、なかなか打開の糸口が見えないのがつらいところです。

投稿: しょう | 2023年12月31日 (日) 20時34分

しょうさん、あけましておめでとうございます。本日より帰省し、某県で小学校教諭をしている姪から病気を除いて全く同様の話を聞いていたところです。
指導要領の次期改訂とセットになる「学習基盤の一体的改革」は、抜本的条件整備のチャンスです。まさに組合を含めた現場が声を上げ、下からの改革を提起すべき時であると考えています。
一つの突破口は「探究」をどう定数に加味するかではないでしょうか。「定数改善しないと、VUCA時代に課題解決を担ってくれる子どもたちの資質・能力は育ちませんよ。それでもいいんですか」と迫るべきだと愚考しております。

投稿: 本社読管 | 2024年1月 1日 (月) 23時26分

 新年おめでとうございます。1月1日に帰省とはお忙しいですね。今年もよろしくお願いいたします。

>指導要領の次期改訂とセットになる「学習基盤の一体的改革」は、抜本的条件整備のチャンスです。まさに組合を含めた現場が声を上げ、下からの改革を提起すべき時であると考えています。
>一つの突破口は「探究」をどう定数に加味するかではないでしょうか。

 ありがとうございます。組合の会議や執行部とも話題にしていきたいと思います。

投稿: しょう | 2024年1月 2日 (火) 06時55分

しょうさん、おはようございます。お住いの地区は津波被害など大丈夫でしたでしょうか。
次期改訂は、定数の在り方そのものを抜本的に見直す数少ないチャンスになるでしょう。特に20年近くも改善が放っておかれた高校については、現場実態に基づいた具体的提言が待たれます。期待しております。

投稿: 本社読管 | 2024年1月 2日 (火) 08時39分

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