PISA2022 教育課程と条件整備の更なる強靭化を
経済協力開発機構(OECD)が日本時間5日19時、2022年に実施した「生徒の学習到達度調査」(PISA2022)の結果を公表した。新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)により1年間延期されたことを受けて、各国の教育制度のレジリエンス(回復力)も問われた。
本社もかねて指摘してきたように、国際順位の上下を論じても決定的な意味はない。とりわけ前回18年調査で3分野とも1位を独占した中国(北京・上海・江蘇・浙江)が、ゼロコロナ政策で休校が長引いたため不参加となっている。ただし日本が3分野とも1位グループ(得点に統計的有意差なし)となっただけでなく、4カ国しかない「レジリエントな国」の一つに挙げられた意義は強調してもし過ぎることはない。
とりわけ読解力は504点にまで下落した前回から516点へと有意に上昇した。これにはPISA自体が15年からコンピューター使用型テスト(CBT)に移行し、読解力が中心分野となった18年調査で本格的なデジタル対応の出題がなされていたことも影響していよう。コロナ禍でGIGAスクール構想が一気に実現したのは、文字通りけがの功名だ。
国内的には意外だが、休校措置が他国より短かったというのも無視できない。授業再開後の対応も含め、ひとえに教育現場の努力に負うものだ。科学的根拠に基づかない安倍晋三首相(当時、故人)の全国一斉休校要請がなかったら、もっと好成績を上げていた可能性すらある。
ところでOECDのアンドレアス・シュライヒャー教育スキル局長の事前記者説明会を聞いていて、気になる指摘があった。近年のフィンランドの低迷について問われ、慎重な分析が必要だと断りながらも▽所得や民族など母集団の急速な多様性の高まりに対応できなかった▽変革や改革のペースが早すぎ、教員が追い付けなかった――との見方を示したのだ。これらは、日本にとっても教訓となろう。
OECDによると、パンデミック以前から加盟国の平均得点は低下傾向にあった。もしかすると欧州を中心に、移民の増加が影響したのかもしれない。これに対して相対的に生徒集団の同質性を維持できた日本は、上昇の条件に恵まれていたと言えなくもない。
ただし各方面で人材不足に悩む日本も早晩、外国人の受け入れを拡大しなければ社会が持たなくなろう。たとえ建前として移民政策を取らなくても、既に外国ルーツの児童生徒がクラスにいても珍しくない状況にある。
何はともあれ今回の結果に、文部科学省は胸をなで下ろしている。少なくとも学習指導要領の次期改訂にブレーキをかけるような要素はないからだ。
今回の結果を詳細に分析した上で、教育課程の基準である指導要領とその実現のための条件整備を更に強靭(きょうじん)化しなければならない。少なくとも現行指導要領が理不尽な批判にさらされることのない今のうちに、次期改訂に向けた冷静な議論を進めるべきである。
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