改訂諮問の年に③ 「学習評価」の根源的な捉え直しを
学習評価は、何のためにするのか――。教育の専門家である教師に、そうした問いをするのは愚問だろうか。しかし定期テストの廃止すら世間を騒がせるだけでなく教育現場にも賛否両論を巻き起こす状況を見るにつけ、本当に評価の専門性が浸透しているのか疑わしく思っている。
今では古い話になるが、現行学習指導要領の改訂を提言した中央教育審議会の2016年12月答申でさえ「(関心・意欲・態度の評価が)挙手の回数やノートの取り方など、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭し切れていないのではないか」と指摘していた。小中学校で観点別評価が導入されてから指導要領も変わっているのに、である。
教員の多忙化が深刻化しているが、その端緒は「ゆとり教育批判」に対応した学力向上対策に加えて観点別評価の厳密な「規準・基準」づくりの作業だった印象がある。それだけ緻密な作業をして、本当に子どもを伸ばし授業を改善することにつながっているのか。評価のための評価では、自分たちの首を絞めるだけの徒労でしかない。
中教審側にも、若干の責任があろう。答申後に発足した教育課程部会の学習評価ワーキンググループ(WG)では、4観点から3観点に整理された評価を巡って「『CCA』や『AAC』といったばらつきのあるものとなった場合には、児童生徒の実態や教師の授業の在り方などそのばらつきの原因を検討し、必要に応じて、児童生徒への支援を行い、児童生徒の学習や教師の指導の改善を図るなど速やかな対応が求められる」とした。自明と言えば自明なことではあるものの、現場に対して厳密な評価規準・基準による評価を更に求めるメッセージになりかねないことに注意が払われていない。
その点で注目されるのは第12期中教審の正委員で教育課程部会長や義務教育ワーキンググループ(WG)主査などを務める奈須正裕・上智大学教授が、1月にあったオンライン講演会で「小学校でCを出す時はエビデンスが要るが、CでなければBでいい。Bよりも明らかに上なら、Aでいい。厳密にするより、もっと伸びやかに評価を行ってしてほしい」と述べていたことだ。信頼すべきであり培うべきは、そんなアバウトな評価を適切に行える教師の力量である。
「指導要録に載せるのだから、緻密な評価は当然だ」という反論が当然返ってこよう。しかしGIGA時代だというのに、指導要録の様式例だけに頼った評価に任せたままでいいのか。というより要録自体が、時代の進展に合ったものなのか。そもそも、記載時点での「値踏み」にすぎない。評価された直後から、子どもは変わっていくはずである。評価データをポートフォリオ化して、必要な時に必要な情報を取り出せるようにしておけばよい。
「内申書や調査書の原簿にもなるのだから、厳密な評価は当然だ」という反論も当然あろう。しかし大学さえ希望者全入時代を迎え、高校は既に定員割れが続出している時代である。1点刻み・一発勝負のテスト自体も問われる必要があるし、ましてや「平素の学習を重視する」という美名の下に在学中の評定平均値をいつまでも絶対視していていいのか。そもそも上級学校は、下の学校から送られた要録を生かして指導を行っているのか。
むしろ子どもは、学校卒業後も伸びていかなければならない存在である。自己調整能力を付けるのも、生涯にわたってエージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)を発揮しウェルビーイング(個人的にも社会的にも人々が心身ともに幸福な状態)を図るためだろう。
そのための形成的評価と、授業評価こそ重視されなければならない。もしもその障害になるとするなら、見直されるべきは指導要録の制度や入学者選抜の方だ。次期改訂では、そんな根源的捉え直しも一度は行う必要があろう。
世間にも、数値による評定信仰がまかり通っている。教育界自身もそうだろう。それを乗り越えなければ、本当の意味で誰一人取り残さない教育は実現しまい。
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コメント
「重要な指摘」だと思いつつ応答できていませんでしたが、簡単なコメントと過去の拙文の紹介を内容とするブログ記事を公開しました。よろしければ、ご一読ください。
投稿: しょう | 2024年3月24日 (日) 21時27分
しょうさん、いつもありがとうございます。締め切りに追われ更新もままなりませんが、改めて論じたいと思っております。
投稿: 本社編集 | 2024年3月25日 (月) 08時28分