「教師確保」素案〈中〉 何の前進もない「働き方改革」
中央教育審議会初等中等教育分科会「質の高い教師の確保特別部会」審議まとめ素案を巡る先の社説では、教員給与特別措置法(給特法)の扱いと「学校の働き方改革」が別問題であることを確認した。では、肝心の後者はどう扱われたのか。
乱暴に一言で評すると、何の前進もない。当該章の表題が「 学校における働き方改革の更なる加速化」であることは、その象徴だ。
2019年答申以来の働き方改革に関して、素案は「全体として見れば着実に進捗してきている」と自賛。具体的には、22年度勤務実態調査から推計される教諭の月当たり平均時間外在校等時間が小、中学校とも6年間で約3割減少したこと、有給休暇の年間平均取得日数も約2日増加したことをもって「教育委員会や学校の尽力の成果である」とした。
しかし、その後すぐに 「一方、教育委員会や学校における取組状況の差がみられるという課題も残っており」「そもそも上限方針を定める教育委員会規則等が未整備である教育委員会もごく僅かであるが存在している」などと、まだまだ教育現場に改善の余地があるかのような説明を加えている。
その後の長々とした指摘は、ほとんど今までの繰り返しだ。審議過程で委員から出た発言を反映したのかもしれないが、要するに新たな「改革」案に至らなかったことを意味しよう。
会合では教師の一人当たり持ち授業時数を制限すべきだとの意見も、たびたび出されていた。素案では次章「学校の指導・運営体制の充実」で「持ち授業時数が多い場合にはその軽減が必要である」としながらも、小学校での教科担任制拡大の効果が持ち時数の減少に表れていると指摘。中学年でも推進する教職員定数改善の必要性を訴え、既定路線の追認にとどめた。
それより問題なのは「持ち授業時数のみで教師の勤務負担を測ることは十分ではない」「校長等の管理職によるマネジメントの裁量を縛ることになる可能性も危惧される」と言い切ってしまったことだ。学級数に「乗ずる数」の引き上げによって持ち時数を減少させることにも、「必ずしも増加した教員定数が持ち授業時数の減少のために用いられない可能性がある」と言及した。本格的な定数改善の検討を待つべきだという現実的な判断を割り引いても、後々に禍根を残す表現と言わざるを得ない。
いわゆる勤務間インターバルは、19年答申に向けた「学校における働き方改革特別部会」の部会長だった小川正人・東京大学名誉教授が推奨していた。しかし素案は「『勤務間インターバル』の取組を学校においても進めることには大きな意義がある」と、まるで人ごとだ。早出遅出勤務やフレックスタイム制度、テレワークの導入促進も同様である。
戦略や兵站(へいたん)を考慮せず泥沼化した戦中の発想と何ら変わることはない、と言ったら心外かもしれない。しかし会合の開始と同時に公開された素案の説明を聞きながら、陰から「まだまだ士気が足りない。総員、突撃して玉砕せよ」という声が聞こえたような気がした。
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