【雪下鐘音】40年と桜
▼4日、東京で満開が発表された。この10年で最も遅いという。横浜はまだだが、けっこう咲いていた。鎌倉もそうだった▼40年前のこの日は、開花の兆しもなかった。といっても花見の習慣もない道産子にとっては数日後の入寮オリエンテーションで、やっと先輩が見つけた一枝差しを前にしてもピンと来なかった。満開の段葛が赤いぼんぼりに照らされて血塗られたように見え、恐怖さえ覚えた▼開花が待ち遠しくなったのは、いつからだったろう。乾燥した厳しい冬を重ねたせいか、あるいは薄桃色の花がこんもりする様が雪のように見えてきたせいか▼本社のある池上界隈は、東京より横浜の開花状況に近い。とはいえ今年は、不思議な状態にある。御会式桜(十月桜)は花をつけたままだし、例年ソメイヨシノと入れ替わる枝垂桜は靖国で開花が宣言された頃ようやく見ごろを迎え満開発表に前後して散り始めた▼この40年で世はバブルから「失われた30年」が続き、気候温暖化も著しい。ソ連崩壊の直後から冷戦の代理戦闘地で虐殺が相次いでいると聞いてはいたが、さすがに民族・宗教対立のエスカレートはショックだった。国内では小泉構造改革と「アベ政治」、国外では米トランプ大統領の登場から大使館襲撃に至って民主主義さえ混迷を深めている▼教育界は臨教審を経て学習指導要領も4回改訂され、年内には次期の改訂諮問が見込まれている。しかし文部科学省はかつて歩き回った文部省とは様相が変わり、今や出入りどころか局課の移動すら難しい。諸会合も新型コロナが5類に移行したというのに、対面傍聴が解禁される兆しはない▼京都の桜は、どうだろう。変わらないのは築111年目を迎えた京都大学吉田寮だ。1985年当時でさえ、関東大震災の3年後に再建された我らが寮より頑丈そうだった▼鎌倉で隠れた桜の名所はどこかと聞かれたら、迷わず清泉小学校の路地と答える。しかし一番は、もはや鉄扉越しから眺めるしかない第二の故郷への通用路である。
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