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2024年6月

2024年6月23日 (日)

骨太の方針2024 教職調整額以外に注目すべきこと

 政府が「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」を閣議決定した。方針が果たして経済成長や財政再建につながるのか、そもそも「骨太」と呼べるのかはおいておこう。今や各省庁にとっては、骨太の方針に載せられなければ予算獲得で勝負にならないとさえ言われている。

 文教政策(質の高い公教育の再生)で最大の目玉が、教職調整額の水準であることは疑いがない。実際、「少なくとも10%以上に引き上げること」が明記された。

 しかし骨太2024には、それ以外にも注目すべき点がある。

 昨年の骨太2023は、文教政策の記述が約2100字と前年に比べ倍以上になった。萩生田光一・自民党政調会長(当時)の強い意向が働いたとされる。萩生田氏が「失脚」した今回は500字ほど減ったものの、まずまずの分量を確保できたと言えよう。それが都連会長の継続を容認された萩生田氏に忖度(そんたく)したものかどうかは知らないが、内容的には文部科学省側の「勝利」と評していい。

 調整額に関して言えば、「中央教育審議会提言を踏まえ」と明記されたことが意外に大きいのではないか。そもそも政府全体で、中教審の文書が尊重される保障はない。しかし今回は調整率だけでなく新たな級の創設や諸手当改善、小学校の教科担任制「拡大」なども、しっかり盛り込まれている。

 本社が最も注目するのは、子どもの学びに触れた冒頭で「個別最適・協働的な学びを一体的に充実し、主体的・対話的で深い学びを実現するため、柔軟な教育課程の実現に向けた取組を進める」とした一文だ。これは明らかに、学習指導要領の次期改訂を意識した文言だろう。中教審の「令和答申」(「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」、21年1月)に政府としてお墨付きを与えるだけでなく、今より「柔軟」な教育課程を編成できるような方向を是認させたに等しい。既に諮問方針の一端が示された、とみていいだろう。

 「義務教育段階にとどまらず、高校教育の質の向上を含め」「高校段階についても、質の向上を図りつつ、教育費の負担軽減を推進する」とされたのも注目点だ。これまで高校の条件整備は、義務制に比べ遅れていた。5月の中教審「質の高い教師の確保特別部会」審議まとめでも高校の指導・運営体制に関して言及があり、総合的な探究の時間を教育課程の軸に据えた学びを充実するためのコーディネート教職員を配置することさえ提言された。

 高校に関しては今後、中教審の高校教育ワーキンググループ(WG)で「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方」提言に向けた具体的な検討が進んでいこう。高校改革の方向性も、間もなく姿を現すのではないか。

 このように骨太24は、報道等で取り上げられる以上に重要な文言がたくし込まれているように思える。教育界も今後の動向に、大いに注目すべきだ。

 

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2024年6月 2日 (日)

【池上鐘音】「ありふれた」学校現場

▼現職教員は、公開中のドイツ映画『ありふれた教室』(イルケル・チャタク監督)を見ない方がいい。内容が的外れ、というわけでは決してない。過呼吸を起こしかねないほど、自分の職場で現実に起こっていることと錯覚しかねないからだ▼主人公が教育に情熱と信念だけでなく確かな技術も持っていることは、実態を知っている人なら冒頭すぐ分かるだろう。そんな優秀な教師が、ちょっとしたボタンの掛け違いから始まる「学校」崩壊に巻き込まれていく。ゼロトレランス(不寛容)方式を導入しているという設定は象徴的だが、どこにでも起こり得る話だ▼それでも見に行くという人は、ぜひパンフレットも買ってほしい。東京都の教職員を多数診てきた真金薫子・山楽病院精神神経科部長の寄稿が、日本の現場実態を余すことなく伝えてくれている▼パンフで他の執筆者が強調するほど、描かれた「教室」の姿に独日の文化差はないように思える。おそらく経済協力開発機構(OECD)加盟諸国のどこにも、大なり小なり置き換えが可能だろう▼真金部長の寄稿は、全学校関係者に向けて「学校の日常がどのようなものか、日々教師がどんな思いを抱きどのような学校生活を送って仕事をしているのか、現場を肌感覚で理解するためにも、是非観ていただきたい作品である」と結んでいる。とりわけ「教育行政に携わる方」こそ、深刻に受け止めるべきだ▼宣伝チラシには「ラスト、あなたが感じるのは【希望】か?【絶望】か? それとも【恐怖】か?」とある。少なくとも小子は、そこに教育の本質を見た気がした。

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