「天笠検討会」論点整理(5) 教科書「使用」義務にも踏み込め
天笠検討会の論点整理で画期的なのは、教科書の在り方にまで言及したことだろう。教科書制度を巡っては微妙な問題が山積していることも事実だが、これを機会にデジタル時代の大胆な見直しを進めたい。
入試との関係は、前回論じた。付言すると「入試が必ずしも十分に変わっていない中で、授業改善の方向性と入試の出題傾向にズレが生じ、結果として教科書の内容も授業も変わりづらいのではないか」という指摘は、とりわけ高校に当てはまろう。大学受験対策に使えるかどうかが採択を左右し、最終学年では「演習」が主になっている。国語で「文学作品」の扱いが問題になる状況があるのは、本末転倒だ。そんな教育が横行したままでは、せっかく探究学習で育んだ資質・能力にもブレーキをかけかねない。高大接続改革の再審議はもとより、高校以下を含めた入試の在り方について正面からの議論が待たれる。
さて教科書は「主たる教材」(教科書発行法)であり、学校には教科書を使用する義務が学校教育法で定められている。天笠検討会では座長代理で中央教育審議会教育課程部会長も務める奈須正裕・上智大学教授が6月の会合で「教科書を網羅的に教えないといけないという使用義務の捉え」について問題提起したが、論点整理では「教科書の内容を全て教えなくてはいけないという考え方」の根強さという表現にとどめている。
教科書制度を危うくすることを承知で、あえて提案したい。学校の使用義務を、国の「供給義務」に替えることだ。
使用義務のままにすることで実際には網羅的な扱いはもちろん、教科書の表現に授業が縛られ続けることになる。教科書検定は記述の一言一句をめぐって揺れてきたし、優れて専門性に基づくはずの教科書を「素人(レイマン)」である教育委員が全部読んで採択するという珍妙な運用も全国に拡大・定着した。
共同採択地区が定められているのは、域内で教科書研究を深めることを狙いとしている。しかしネット時代に、地理的条件を考慮する必要もあるまい。極論すれば義務制でも各学校が実態に応じて個別に採択できるようにすれば、むしろ純粋に質で教科書が選ばれることになろう。
一方で、教科書を見ないと学習指導要領の趣旨が十分理解できないという実態が現場にあることも認めざるを得ない。だからこそ「主たる教材」としての存在意義がある。それだけに指導要領の法的拘束力によって教科書使用義務が固く考えられ、「かえって教師の創意工夫や教師の指導力向上を阻んでいる」(論点整理)ことにもつながっている。
悩ましいのは、義務制の教科書無償措置だ。使用義務を外せば、無償給与の根拠も崩れてしまいかねない。もちろん「使用」の解釈を緩くすれば、現行法令を改正する必要はない。
いっそ供給義務に替えれば、主たる教材である教科書は引き続き届く。ただし現場がどう活用するかは、あくまで教職の専門性に委ねる。極端な話、教材研究に活用すれば必ずしも授業で使わなくていいことにしてはどうか。そこまで踏み込んでこそ、デジタル教科書・教材時代の教科書にふさわしい。
余談を付け加えておこう。「教科書の内容は格段に充実し、ページ数が大幅に増えている現状」(同)をもたらしたのは当時の下村博文・文部科学相だし、児童生徒が自学自習できる教科書さえ主張していた。白黒化の提言は滑稽だったが、古い教科書観を助長し続けてきたのは保守合同前からの自民党だ。衆院選でも「日本の伝統」に基づく教育の主張が散見されたが、そんなアナクロニズムにいつまでも付き合っていてはVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代に対応できなくなる。
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