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2024年11月

2024年11月19日 (火)

教職調整額の財務省案 真の狙いは「10%」だ

 現行4%の教育調整額を文部科学省が13%に引き上げるよう概算要求したのに対し、財務省が条件付きで毎年少しずつ引き上げて10%になる段階で残業代への切り替えを検討するよう提案したことが波紋を広げている。教員給与特別措置法(給特法)廃止を主張する教育関係者は財務省案を一定評価する一方、文部科学省は「見解」を表明し反論。教育関係23団体も緊急声明をまとめ、概算要求の実現を求めた。

 文科省案と財務省案の、どちらが優れているか。そんなふうに考えてはいけない。そもそも「10%」で決着させようとしていることが、財務省の狙いだからだ。

 伏線はあった。総選挙投票前の10月22日にあった財政制度等審議会財政制度分科会の議題は「地方財政」だったが、ここに財務省は10%引き上げで地方に3000億円(義務教育2000億円、公立高校等1000億円)の負担増が見込まれるという総務省の試算を提出した。6月の「骨太の方針2024」が調整額を「10%以上」に引き上げるとしたことを前提に、社会保障分野の歳出改革徹底などによる財源確保を訴えたものだった。

 投票後の11月3日、共同通信が「公立校教員に残業代支給を検討 定額廃止案、勤務時間を反映」という「政府内で浮上した」案の記事を配信。地方紙は翌日の朝刊で一斉に報じたが、全国紙は電子版を含め一切反応しなかった。8日になって数紙が「財務省」案を前打ちし、文教・科学技術を議題の一つとする11日の財政制度分科会を迎えた。

 これは明らかに、未決定の案を一部報道機関にリークして関係者の反応をうかがう「アドバルーン(観測気球)」と呼ばれる手法の典型だ。しかも与野党が「103万円の壁」撤廃論議で揺れているさなかに、である。国の税収減はもちろん、地方からも「たちどころに財政破綻」と悲鳴が上がっていた。

 時間外在校等時間の削減を条件に調整率を引き上げるかどうか毎年判断するという財務省案が示されれば、地方の動揺や教育界の分断再燃だけでなく文科省や教育関係団体は給特法維持を優先して奔走せざるを得なくなる。それこそが、財務省のわなだ。

 そもそも骨太24で25年通常国会への給特法改正法案提出が明記されているのだから、最低でも10%へと一気に引き上げなければ政府の既定方針にもとる。それを財務省も重々承知しているからこそ10月の分科会では負担増に備えるよう地方に呼び掛けたのだろうし、新たな案でも最終的には10%に達することを目指している。

 ところで文科省は見解で「教職員定数等の充実をすることなく、単に学校現場の業務縮減の努力のみをもって学校における働き方改革を進めようとする提案は、学校現場への支援が欠如」と、財務省案を批判した。いったい、どの口が言うのか。「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階から、解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階に移行すべき」(8月の中教審)と現場の努力に委ねたのは、他ならぬ文科省自身ではないか。

 要するに文科省の弱点を突いたのが、財務省案だった。さすが役所の格が違う、と妙な感心をしてしまう。10~13%のどこで決着するかが、予算折衝の見どころである。

 ただ注意したいのは、これで改革を終わらせてはならないということだ。学習指導要領の次期改訂と連動させた、定数算定の抜本的見直し論議を急ぐ必要がある。財務省に産休・育休代替講師を「正規も対象にしてはどうか」と提案されるようでは、情けない。

 

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2024年11月 9日 (土)

【池上鐘音】蝶の羽ばたき

▼バタフライ効果とは、チョウの羽ばたきのような微細な動きが気象変動など予測もしない大きな変化をもたらすことを意味する。NHK『映像の世紀 バタフライエフェクト』は1995年に放送開始した「映像の世紀」の新シリーズで「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」という観点から国内外のアーカイブス映像を編集したという▼予測しない結果を引き起こした最近の例といえば、安倍晋三元首相の銃撃死事件だ。犯人は旧統一教会の「宗教2世」だったが、世間の非難は自民党との癒着に及んだ。さらに裏金問題の発覚で、安倍派をはじめとした自民党有力派閥の解体に進んだ▼しかし安泰とみられた岸田文雄首相は、総裁選に不出馬を余儀なくされた。混戦を勝ち抜いたのは石破茂氏だったが、首相就任直後の解散で惨敗。立憲民主党でも日本維新の会でもなく少数野党の国民民主党がキャスチングボート握るなどと、誰が想像したろうか▼教育界も無縁ではない。旧統一教会の解散命令問題で、合田哲雄・文化庁次長の人事が2年以上も足止めを食らっている。もうすぐ次期学習指導要領の改訂諮問が見込まれているのに、次も中途半端な教育課程改革になってしまったとしたら大変な損失になる。もっとも、まだそこまで風は及んでいない▼これに対して安倍元首相の盟友だったトランプ前米大統領は選挙演説中に銃撃され、民主党候補がの現職のバイデン大統領からハリス副大統領に交代した。形勢逆転かと思いきや、投票が始まるや予想に反して早々に「またトラ」が決まった▼現段階でも想定できるのは、これから世界は一層の混迷を深めるということだろう。米国第一主義のトランプ政権で、ウクライナ侵攻やガザ虐殺攻撃が好転するとは思えない。日本も台湾危機を唱えて自衛隊の強化と「自由で開かれたインド太平洋」による中国包囲網の形成のにいそしんでいるが、その始まりは安倍首相時代だった▼8日の朝日新聞朝刊1面肩に「教員給与改善 財務省案」が載っていたが、それは別に論じよう。その下にある米大統領選を巡る記事で、佐藤武嗣編集委員が引く米国際政治学者イアン・ブレマー氏の言葉にはっとした▼「米国が歴史的に抱いてきた価値観は、もはや当てにできない。日本はそうした環境に備えなければならない」――。敷衍(ふえん)すれば、戦後民主主義以来の価値観も揺らぐのではないか。憲法=教育基本法体制をよりどころにしてきた戦後教育も、もちろん無縁ではない▼世界中で価値観がぶつかり合う時代に将来を担う一人一人の子どもがどう向き合い、エージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)を発揮するための資質・能力をどう育むのか。次期改訂論議でも、大きな危機意識を抱くべきだろう。さて、チョウはどこに連鎖を起こすのか。

 

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2024年11月 5日 (火)

【内側追抜】超要約・某国大統領選

某候補「お前の母ちゃん出~べそ!」

某候補「くるくるパー!」

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2024年11月 3日 (日)

「天笠検討会」論点整理(6) 教職員定数の抜本的改善論議も急げ

 天笠検討会の論点整理には「資質・能力を育成するための教育課程の改善・充実と教職員定数の改善をはじめとする教育条件整備は一体的に行っていく必要がある」との一文が盛り込まれた。中央教育審議会に学習指導要領の改訂を諮問する際には、一体論議も加速する必要がある。

 先ごろ公表された文部科学省の2023年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(問題行動等調査)では、ポストコロナ下で深刻化する実態が改めて浮かび上がった。不登校は伸びが鈍化したとはいえ前年度に比べ約16%増え34万人を軽く突破し、いじめの認知件数はともかく「重大事態」は約42%増の1306件と4桁時代に突入した。

 不登校を巡っては今後、児童生徒が学校外で学習した成果の評価も一層求められる。いじめがいったん重大事態に認定されると、教育委員会はもとより学校現場にも過重な負担が掛かることは言うまでもない。もちろん子ども本位に考えれば、一刻もおろそかにできない対応ではある。

 改めて総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)「政策パッケージ」が提起した「教室の中にある多様性」の図を思い起こそう。文科省の更新資料で中学校の状況を見ると、40人学級の中に平均で▽不登校2.4人、不登校傾向4.1人▽学習面・行動面で著しい困難を示す子2.2人▽家で日本語をあまり話さない子1.3人▽家にある本が少ない子(経済格差)13.9人――と、既に深刻な事態に置かれている。しかも、23年度調査結果の反映前だ。

 各地の25年度公立学校教員採用選考にも、あまりいいニュースは聞かれない。新採教員の質低下だけでなく、臨時任用要員の更なる枯渇で「教師不足」にも拍車がかかろう。産休・育休や病休の増加も相まって、定数さえ充足できない状況が常態化している。

 もう現場の過重負担は、耐えられないほどの状態であることを認識する必要がある。働き方改革も、のんきに「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階から、解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階に移行すべき」(8月の中教審答申)などと言っていていいのか。

 その上に論点整理が提案した教育課程改革の方向性を次期指導要領で進めようとするなら、従来の発想を抜本的に転換した定数改善の検討が不可欠になろう。少なくとも学級数を算定基礎にすることには、限界が来ている。そもそも指導の個別化・学習の個性化を学習者視点から整理したのが「個別最適な学び」だとするなら、チーム・ティーチング(TT)が基本になるべきなのが道理だ。

 1人1台端末が普及した分、学級担任1人でも指導の個別化や学習の個性化は補えるとの考え方はあろう。しかし先の教室における深刻な実態をみると、むしろ一人一人を丁寧に見取って対応する必要性は高まっている。

 そもそも日本の教育は、学級定員の多さにもかかわらず「生徒の学習到達度調査」(PISA)で好成績を示す「生産性の高い国」であると経済協力開発機構(OECD)は評価している。深刻な事態が進行する中でこれ以上の生産性向上、労働強化を求めようというのか。教職調整額の引き上げをはじめとする処遇改善は「環境」整備にはなっても、課題の解決策にはならない。

 カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)と教師のワーク・オーバーロードは別問題だという論点整理の認識はその通りだが、カリキュラムを高度化するには教師の質向上が欠かせない。そのためにも次期指導要領の全面実施までに、従来の発想を脱した新しい定数を実現すべく検討を急ぐべきである。養成・採用・研修の在り方も根本的に見直すべきだが、それはまた別に論じよう。

 

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