【池上鐘音】蝶の羽ばたき
▼バタフライ効果とは、チョウの羽ばたきのような微細な動きが気象変動など予測もしない大きな変化をもたらすことを意味する。NHK『映像の世紀 バタフライエフェクト』は1995年に放送開始した「映像の世紀」の新シリーズで「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」という観点から国内外のアーカイブス映像を編集したという▼予測しない結果を引き起こした最近の例といえば、安倍晋三元首相の銃撃死事件だ。犯人は旧統一教会の「宗教2世」だったが、世間の非難は自民党との癒着に及んだ。さらに裏金問題の発覚で、安倍派をはじめとした自民党有力派閥の解体に進んだ▼しかし安泰とみられた岸田文雄首相は、総裁選に不出馬を余儀なくされた。混戦を勝ち抜いたのは石破茂氏だったが、首相就任直後の解散で惨敗。立憲民主党でも日本維新の会でもなく少数野党の国民民主党がキャスチングボート握るなどと、誰が想像したろうか▼教育界も無縁ではない。旧統一教会の解散命令問題で、合田哲雄・文化庁次長の人事が2年以上も足止めを食らっている。もうすぐ次期学習指導要領の改訂諮問が見込まれているのに、次も中途半端な教育課程改革になってしまったとしたら大変な損失になる。もっとも、まだそこまで風は及んでいない▼これに対して安倍元首相の盟友だったトランプ前米大統領は選挙演説中に銃撃され、民主党候補がの現職のバイデン大統領からハリス副大統領に交代した。形勢逆転かと思いきや、投票が始まるや予想に反して早々に「またトラ」が決まった▼現段階でも想定できるのは、これから世界は一層の混迷を深めるということだろう。米国第一主義のトランプ政権で、ウクライナ侵攻やガザ虐殺攻撃が好転するとは思えない。日本も台湾危機を唱えて自衛隊の強化と「自由で開かれたインド太平洋」による中国包囲網の形成のにいそしんでいるが、その始まりは安倍首相時代だった▼8日の朝日新聞朝刊1面肩に「教員給与改善 財務省案」が載っていたが、それは別に論じよう。その下にある米大統領選を巡る記事で、佐藤武嗣編集委員が引く米国際政治学者イアン・ブレマー氏の言葉にはっとした▼「米国が歴史的に抱いてきた価値観は、もはや当てにできない。日本はそうした環境に備えなければならない」――。敷衍(ふえん)すれば、戦後民主主義以来の価値観も揺らぐのではないか。憲法=教育基本法体制をよりどころにしてきた戦後教育も、もちろん無縁ではない▼世界中で価値観がぶつかり合う時代に将来を担う一人一人の子どもがどう向き合い、エージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)を発揮するための資質・能力をどう育むのか。次期改訂論議でも、大きな危機意識を抱くべきだろう。さて、チョウはどこに連鎖を起こすのか。
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