教職調整額の財務省案 真の狙いは「10%」だ
現行4%の教育調整額を文部科学省が13%に引き上げるよう概算要求したのに対し、財務省が条件付きで毎年少しずつ引き上げて10%になる段階で残業代への切り替えを検討するよう提案したことが波紋を広げている。教員給与特別措置法(給特法)廃止を主張する教育関係者は財務省案を一定評価する一方、文部科学省は「見解」を表明し反論。教育関係23団体も緊急声明をまとめ、概算要求の実現を求めた。
文科省案と財務省案の、どちらが優れているか。そんなふうに考えてはいけない。そもそも「10%」で決着させようとしていることが、財務省の狙いだからだ。
伏線はあった。総選挙投票前の10月22日にあった財政制度等審議会財政制度分科会の議題は「地方財政」だったが、ここに財務省は10%引き上げで地方に3000億円(義務教育2000億円、公立高校等1000億円)の負担増が見込まれるという総務省の試算を提出した。6月の「骨太の方針2024」が調整額を「10%以上」に引き上げるとしたことを前提に、社会保障分野の歳出改革徹底などによる財源確保を訴えたものだった。
投票後の11月3日、共同通信が「公立校教員に残業代支給を検討 定額廃止案、勤務時間を反映」という「政府内で浮上した」案の記事を配信。地方紙は翌日の朝刊で一斉に報じたが、全国紙は電子版を含め一切反応しなかった。8日になって数紙が「財務省」案を前打ちし、文教・科学技術を議題の一つとする11日の財政制度分科会を迎えた。
これは明らかに、未決定の案を一部報道機関にリークして関係者の反応をうかがう「アドバルーン(観測気球)」と呼ばれる手法の典型だ。しかも与野党が「103万円の壁」撤廃論議で揺れているさなかに、である。国の税収減はもちろん、地方からも「たちどころに財政破綻」と悲鳴が上がっていた。
時間外在校等時間の削減を条件に調整率を引き上げるかどうか毎年判断するという財務省案が示されれば、地方の動揺や教育界の分断再燃だけでなく文科省や教育関係団体は給特法維持を優先して奔走せざるを得なくなる。それこそが、財務省のわなだ。
そもそも骨太24で25年通常国会への給特法改正法案提出が明記されているのだから、最低でも10%へと一気に引き上げなければ政府の既定方針にもとる。それを財務省も重々承知しているからこそ10月の分科会では負担増に備えるよう地方に呼び掛けたのだろうし、新たな案でも最終的には10%に達することを目指している。
ところで文科省は見解で「教職員定数等の充実をすることなく、単に学校現場の業務縮減の努力のみをもって学校における働き方改革を進めようとする提案は、学校現場への支援が欠如」と、財務省案を批判した。いったい、どの口が言うのか。「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階から、解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階に移行すべき」(8月の中教審)と現場の努力に委ねたのは、他ならぬ文科省自身ではないか。
要するに文科省の弱点を突いたのが、財務省案だった。さすが役所の格が違う、と妙な感心をしてしまう。10~13%のどこで決着するかが、予算折衝の見どころである。
ただ注意したいのは、これで改革を終わらせてはならないということだ。学習指導要領の次期改訂と連動させた、定数算定の抜本的見直し論議を急ぐ必要がある。財務省に産休・育休代替講師を「正規も対象にしてはどうか」と提案されるようでは、情けない。
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