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2024年11月 3日 (日)

「天笠検討会」論点整理(6) 教職員定数の抜本的改善論議も急げ

 天笠検討会の論点整理には「資質・能力を育成するための教育課程の改善・充実と教職員定数の改善をはじめとする教育条件整備は一体的に行っていく必要がある」との一文が盛り込まれた。中央教育審議会に学習指導要領の改訂を諮問する際には、一体論議も加速する必要がある。

 先ごろ公表された文部科学省の2023年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(問題行動等調査)では、ポストコロナ下で深刻化する実態が改めて浮かび上がった。不登校は伸びが鈍化したとはいえ前年度に比べ約16%増え34万人を軽く突破し、いじめの認知件数はともかく「重大事態」は約42%増の1306件と4桁時代に突入した。

 不登校を巡っては今後、児童生徒が学校外で学習した成果の評価も一層求められる。いじめがいったん重大事態に認定されると、教育委員会はもとより学校現場にも過重な負担が掛かることは言うまでもない。もちろん子ども本位に考えれば、一刻もおろそかにできない対応ではある。

 改めて総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)「政策パッケージ」が提起した「教室の中にある多様性」の図を思い起こそう。文科省の更新資料で中学校の状況を見ると、40人学級の中に平均で▽不登校2.4人、不登校傾向4.1人▽学習面・行動面で著しい困難を示す子2.2人▽家で日本語をあまり話さない子1.3人▽家にある本が少ない子(経済格差)13.9人――と、既に深刻な事態に置かれている。しかも、23年度調査結果の反映前だ。

 各地の25年度公立学校教員採用選考にも、あまりいいニュースは聞かれない。新採教員の質低下だけでなく、臨時任用要員の更なる枯渇で「教師不足」にも拍車がかかろう。産休・育休や病休の増加も相まって、定数さえ充足できない状況が常態化している。

 もう現場の過重負担は、耐えられないほどの状態であることを認識する必要がある。働き方改革も、のんきに「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階から、解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階に移行すべき」(8月の中教審答申)などと言っていていいのか。

 その上に論点整理が提案した教育課程改革の方向性を次期指導要領で進めようとするなら、従来の発想を抜本的に転換した定数改善の検討が不可欠になろう。少なくとも学級数を算定基礎にすることには、限界が来ている。そもそも指導の個別化・学習の個性化を学習者視点から整理したのが「個別最適な学び」だとするなら、チーム・ティーチング(TT)が基本になるべきなのが道理だ。

 1人1台端末が普及した分、学級担任1人でも指導の個別化や学習の個性化は補えるとの考え方はあろう。しかし先の教室における深刻な実態をみると、むしろ一人一人を丁寧に見取って対応する必要性は高まっている。

 そもそも日本の教育は、学級定員の多さにもかかわらず「生徒の学習到達度調査」(PISA)で好成績を示す「生産性の高い国」であると経済協力開発機構(OECD)は評価している。深刻な事態が進行する中でこれ以上の生産性向上、労働強化を求めようというのか。教職調整額の引き上げをはじめとする処遇改善は「環境」整備にはなっても、課題の解決策にはならない。

 カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)と教師のワーク・オーバーロードは別問題だという論点整理の認識はその通りだが、カリキュラムを高度化するには教師の質向上が欠かせない。そのためにも次期指導要領の全面実施までに、従来の発想を脱した新しい定数を実現すべく検討を急ぐべきである。養成・採用・研修の在り方も根本的に見直すべきだが、それはまた別に論じよう。

 

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