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2025年1月

2025年1月23日 (木)

デジタル教科書 「2030年度」は本気か

 21日に開催された中央教育審議会のデジタル教科書推進ワーキンググループ(WG)では、「当面の間」以降のデジタル教科書の在り方を検討した。文部科学省事務局はデジタル部分も含め使用義務・検定・採択・無償給与等の対象とすることを、次期学習指導要領に基づく教科書が使用開始となる2030年度に合わせるという「今後のスケジュール感(仮定)」図を示した。

 どこまで本気なのだろう。とても間に合うとは思えない。

 もっとも資料は「念頭に置くべきか」「必要ではないか」と決して断定しておらず、堀田龍也主査(東京学芸大学教職大学院教授)も言う通り「何かを決めた資料ではない」。「当面の間というのは、現行の指導要領の下でということ」と述べたのも、そう事務局から説明されているからに違いない。

 「(改正法案を)国会で通す人たちは、めちゃ大変」(堀田主査)なのも、分かり切ったことだ。しかし閣法を出して通す肝心の当事者に、今のところ覚悟は見られない。

 教科書が使用されるまでには、編集・検定・採択を含めた4年間のサイクルが必要になる。「仮定」では30年度使用に間に合わせるため、25~26年度に「必要な制度改正」を行うとしている。

 指導要領の改訂諮問は、やっと昨年末に行われたばかりだ。確かに諮問理由には「新たな学びにふさわしい教科書の内容や分量、デジタル教科書等の在り方」が盛り込まれている。教科書と指導書に依存した授業やカリキュラムの在り方も見直すため、これから現場も巻き込んだ激論が交わされようとしている。

 しかも教育課程部会長を務める奈須正裕委員が指摘したように、制度的な基準は緩めていく必要がある。その先でないと「新たな」教科書像は見えてこない。ましてや同時並行的に検定制度や無償制に踏み込める話だとは、とても思えない。教科書発行者にも、相当な負担をかけることになる。

 だいたい次期指導要領に合わせてデジタル教科書も前に踏み出そうとするなら、両方とももっと早く検討する必要があった。改訂諮問がないと始まらないという建前は理解できなくもないが、泥縄式に急いでは禍根を残す。

 そもそも旧態依然の教科書観を持つ政治家や論客は、依然として多かろう。デジタル教科書の推進に反対の論陣を張る新聞社は、主筆が死去してもキャンペーンを続けている。そんな情勢が読めていないとしたら、信じられない。まずは次期指導要領下でデジタル教科書による効果発揮をアピールしつつ、2サイクル目に向けて制度改正を検討すべきだ。

 もちろん「仮定」の話だから、何がしかのショック療法を仕掛けた可能性もなくはない。ただ、近年の文科省にそんな度量が備わったとも思えない。

 諮問に至る準備作業もそうだが、ここのところ文科省の施策推進は遅れと拙速が目に余る。今回の会合を受けて翌日、主要各紙は一斉に報じた。デジタル教科書に妙なメッセージを振りまくことにならなければいいが、杞憂だろうか。 

 

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2025年1月 5日 (日)

教職員諮問 開放制原則も「根本」から疑え

 昨年12月25日の中央教育審議会総会に諮問された2本目は「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」。諮問文だけでは分かりにくいが、要するに教員養成・採用・研修の一体的改革だ。それ自体は不可欠であり、歓迎したい。しかし評価できるのは、学習指導要領の改訂と併せて諮問したということだけである。

 諮問文の分かりにくさ自体が、現下の教員改革の混迷を示していよう。諮問理由も、二つの点で前提が間違っている気がしてならない。

 一つ目は、「令和4年答申で示された改革の方向性にのっとり」としている点だ。新型コロナウイルス禍を踏まえた初等中等教育の在り方を提言した2021(令和3)年1月の「令和答申」を起点とするのは、まだいい。しかし教員免許更新制の廃止を契機とした22(同4)年12月の答申、さらには教員給与特別措置法(給特法)の扱いが注目された24(同6)年8月の答申という流れを示した上で「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」を求めた22年答申に立ち戻るという論理構成を取っている。

 そもそも22年答申自体が更新制の「発展的解消」という、いびつな前提でまとめられたものだ。その上、中途半端に進行中だった「学校の働き方改革」や定義が不十分な「教師不足」の課題もごったにして▽「新たな教師の学びの姿」の実現▽多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成――という2題話を一体にして提言した。提言自体が混迷していたのだから、「改革が現在進行中」(諮問概要)なのも当然だ。

 今も無謬(むびゅう)性の原則を維持する行政の悪癖が出た、と言うべきだろう。改めてこれまでの教員改革が間違っていた、あるいは不十分であったことを認めるところから出発すべきだ。

 もう一つの「前提」にも、あえて苦言を呈したい、諮問理由の本文を読むと、先の3答申の流れに続けて▽大学における教員養成▽開放制の教員養成――という二つの原則が今も「積極的な意義を有している」と評価している。前者は、まだいい。大学院も含めた「大学」での養成原則は、今後も堅持すべきだ。ただ、現下の教員不足は開放制原則の揺らぎであるという現状認識に欠けている。

 諮問理由では「より多くの学生が教員免許の取得を目指したり、教職生涯を通じて能力向上への意欲を喚起したりするような教員免許制度の在り方」を求めている。ここには二つの矛盾した要求が混在していることを、どこまで認識しているのだろうか。

 広く免許取得を促すということは、日本教育新聞が12月2日付1面トップでスクープしたように「教職単位、大幅削減を検討」するということだろう。当然、免許保持者の質は低下する。そうなれば採用決定段階から「教職生涯を通じて能力向上」する方策とセットでなければ、必然的に初任者の質が低いまま教壇に立たせることになる。「意欲を喚起」などという悠長な話ではない。

 そんな中に「多様な専門性や背景を有する社会人等が教職へ参入しやすくなるような制度」を求めているのは、いまだに教職に幻想を抱いている社会人に対する詐欺だと言ったら言い過ぎだろうか。理想と現実の矛盾に「素人」を巻き込んだところで、質の高い教職員集団など形成できようもない。

 開放制原則を堅持するのはいいとして、まずは社会人も含めて「多様」な学び手を厳しく選抜して教職課程の受講を優遇するところから全ての改革が始まろう。教育委員会は教職課程にも参画し、免許取得後は無試験で採用する。給費制を採るのも一考だ。さらに採用後の研修も、職務とは別に十分保障される必要がある。教職大学院にてこ入れしたいなら、「教職生涯」の中で必修化すればいい。そこまでしてこそ、一体的改革の名に値しよう。

 「教職員集団」にも、課題が山積している。スクールカウンセラー(SC)  の雇い止めや、学校司書の会計年度任用が常態化するなど雇用が不安定な状況で「チーム学校」の質を上げることなどできない。そもそも立ち返って反省すべきは、前回改訂(現行指導要領)審議中に出された15年12月の答申ではないか。

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2025年1月 3日 (金)

指導要領の改訂審議スタート〈下〉 「道半ば」より「未完成」から

 学習指導要領の改訂諮問は「世界に冠たる我が国の初等中等教育は、質の高い教師の努力と熱意に支えられ、大きな成果を上げ続けています」とする一方で「全体としては、現行学習指導要領の理念や趣旨の浸透は道半ばです」との認識を示している。

 本当に「浸透」の問題なのか。むしろ前回改訂(現行指導要領)が「ゆとり教育批判」を恐れるあまり、中途半端になってしまったと捉えるべきだろう。

 典型が、資質・能力だ。前回改訂の準備作業を担った「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)論点整理は「主体性・自律性に関わる力」「対人関係能力」「課題解決力」「学びに向かう力」「情報活用能力」「グローバル化に対応する力」「持続可能な社会づくりに関わる実践力」などを重視するよう求め、教育目標・内容も▽教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの▽教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)▽教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの――で整理するよう求めた。

 しかし実際に打ち出された資質・能力の三つの柱は、学力の3要素に「寄せた」ものだった。そのため、学力観の「転換」にも気付かれにくかった。汎用的スキルは「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられるなど、安彦検討会の論点整理はつまみ食いされた格好だ。

 しかも「教育内容の削減は行わない」という方針を早々に確定し、内容の一つ一つを三つの柱に分けて位置付けたため指導要領は肥大化した。「初任者にも分かるように説明した」というが、むしろベテランでも扱いづらいものになったと反省すべきだろう。結果的にカリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)を助長し、多忙化の一因ともなったことも否めない。

 そもそも諮問で「分かりやすく、使いやすい学習指導要領の在り方」を検討するよう求めているということは、現行指導要領が分かりにくく、使いにくいことを認めているに等しい。それを「浸透」の問題として現場に転化するのは、「解像度」を上げるとした学校の働き方改革と同じで無責任のそしりを免れない。

 「一度の改訂では、やり切れないこともある」――。現行指導要領の評価を巡って、複数の教育課程関係者から聞いた言葉だ。しかし10年に一度でさえ長すぎるのに、20年かけては時代の進展に取り残される。何より不幸なのは、不完全なカリキュラムで教育を受けた子どもたちだ。改訂スパンが長いのなら、途中でも現場が自走できる教育課程の基準を模索すべきである。

 2025年は、昭和100年に当たる。国際的な混迷状況は、まさに「戦間期」の様相を呈している。技術の進展は「生成AIが飛躍的に発展する状況」さえ超えていくかもしれない。少なくとも現下の「デジタル化の負の側面」は、社会全体の危機ともなっている。

 文字通りVUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)の時代を生きる子どもたちに、どのような資質・能力を身に付けさせる必要があるのか。そのための授業や教育環境は、どうあるべきか。時に理想の教育の阻害要因ともなる受験態勢は、今のままでいいのか。そして、それを実現するための教育条件整備はどうあるべきか――。これらの課題を徹底検証した上で、最良の指導要領を完成するよう腐心して初めて「『令和の日本型学校教育』を持続可能な形で継承・発展させること」につながろう。

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2025年1月 2日 (木)

指導要領の改訂審議スタート〈中〉 知識見直しの「地雷」を正々堂々と問え


 授業時間の削減には踏み込まなかった。これで教員の負担が減らせるのか―。先月25日の中教審諮問は一般に、そんな疑念を持って受け止められている。日刊紙報道だけ読めば、当然そうなる。

 教育関係者なら諮問理由自体を読めば、重要な一文に気付くだろう。「個別の知識の集積に止まらない概念としての習得や深い意味理解を促す」という部分だ。

 審議の「資料」である「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(いわゆる天笠検討会)論点整理の「個別的知識及び技能と概念的知識・方略の関係性をより整理すべき」だという指摘を思い起こそう。ここでは個別的知識・技能と概念的知識・方略を、明確に分けている。

 個別的知識は身に付けさえすれば自在に活用できる「転移可能」な知識になるとは限らず、概念的知識にまで高めることが不可欠だ。というより概念的知識こそ重視すべきであり、極論すれば個別的知識は「イグザンプル(例)」(奈須正裕・上智大学教授)にすぎなくなる。

 さらに続く「各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化」にも注目する必要がある。目標・内容を、概念を中心にして構造化するというのだから。

 しかも、それが「カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)」を解消し「余白」をも生み出す決定打になると言ったらどうだろう。さらには「教科書の内容や分量」の精選にも関連してこよう。そうなると授業の在り方は根本的に見直さざるを得なくなるし、児童生徒にとって「知識」丸覚えの勉強は通用しなくなる。

 もっとも概念は「見方・考え方」を敷衍(ふえん)したものと位置付けられるだろうから、現行指導要領とそう大きくは変わらないと受け止められるかもしれない。

 現行学習指導要領も「学力」から「資質・能力」へと、学力観の大きな転換を図ったはずだった。ただし三つがあまりにも似ていた、というより資質・能力の三つの柱を学力の3要素に「寄せた」ため、現場にはそういう印象が薄かった。というより2016年答申当時、文部科学省自身が「ゆとり教育批判」の再燃を恐れて「転換」という印象を与えないよう腐心した形跡さえあった。

 今回も、慎重な言い回しが目立つ。しかしイノベーション(革新)が求められる現在、今さら「イソップの言葉」でもあるまい。仕掛けた地雷が暴発して炎上する前に「生成AIが飛躍的に発展する状況の下」での知識の在り方を、正々堂々と世に問うべきだ。

 本社は『英語教育』(大修館書店)1月号の第1特集「次のカリキュラム(学習指導要領)に望むこと 先取りパブリック・コメント」への配信記事で「死んだ『知識』より、使える『概念』を」というキャッチフレーズを提案した。「死んだ知識より、生かせる概念を」の方がよかったかもしれない。

 三つの柱と「学習の基盤となる資質・能力」の関係も、見直すべきだ。もっと後者に移行して充実させ、前者をスリム化するべきだろう。要するに、前回改訂時の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)論点整理の考え方に立ち戻ることである。

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2025年1月 1日 (水)

指導要領の改訂審議スタート〈上〉 超「資料」基に現場参画で徹底議論を

 昨年12月25日に開催された中央教育審議会総会に、中国出張中だった阿部俊子・文部科学相の臨時代理「国務大臣 中根順子」(三原じゅん子・こども家庭相)名で2本の諮問があった。教育課程の基準の在り方▽「質の高い教職員集団」形成の方策――だが、前者の諮問理由の最後にある「教育課程の実施に必要となる条件整備」も数えれば実質3本だ。

 2025年から、学習指導要領の改訂をはじめとした初等中等教育改革の大論議が本格化しよう。教育現場も、この機会を逃してはならない。

 開会と同時に公開された諮問理由文を一読して、驚いた。「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(いわゆる天笠検討会)論点整理の内容が、想像以上に反映されていたことだ。これはもう「資料」の域を超えている。

 同検討会委員の多くが「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」(学校教育特別部会)をはじめとした中教審の部会等と共通していることは、論点整理が指摘する通りだ。これら会議体は、委員という個人単位で認識を共有してきた。

 裏を返せば、政策的には必ずしも整合性が取られていないということでもある。しかも9月の天笠検討会論点整理にせよ12月24日付で正式決定した学校教育特別部会「義務教育の在り方ワーキンググループ(WG)」審議まとめにせよ、年末諮問のスケジュールに間に合わせるため急いでまとめた感がある。要するに、生煮えだ。

 もちろん一部の主要委員にとって、次期改訂の布石となる必要な提言は盛り込めたに違いない。どういうことかは今後、審議が進むにつれ明らかとなろう。その点が、前回改訂(現行指導要領)とは違う。

 ただ一部報道で授業時間の「5分短縮」ばかりがクローズアップされるように、諮問の真意が必ずしも正しく理解されているとは限らない。一方で、なかなか気付かれにくい「地雷」も仕掛けられている。

 どちらにしても現場による諮問の「主体的」読みがなければ、改訂論議に建設的な参画などできない。本気で「教育課程の実施に伴う負担」を軽減させたいと思うなら、なおさらだ。

 諮問に先立つ24日、子どもに意見を聞いて改訂に反映させる方針を出張前の阿部文科相が表明した。それ自体は結構な話だし、子どもを主語にするという既定路線とも整合する。ただ、それ以上に現場の声を聴くことも重要である。

 今回の諮問は、ある意味で未完成だった現行指導要領の欠点を補うための総ざらいという側面も持っている。だからこそ現場の参画による徹底した議論と納得感の下、答申と改訂告示にこぎつけたい。そのプロセスを踏むことも、今回改訂の大きな特色となろう。

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