デジタル教科書 「2030年度」は本気か
21日に開催された中央教育審議会のデジタル教科書推進ワーキンググループ(WG)では、「当面の間」以降のデジタル教科書の在り方を検討した。文部科学省事務局はデジタル部分も含め使用義務・検定・採択・無償給与等の対象とすることを、次期学習指導要領に基づく教科書が使用開始となる2030年度に合わせるという「今後のスケジュール感(仮定)」図を示した。
どこまで本気なのだろう。とても間に合うとは思えない。
もっとも資料は「念頭に置くべきか」「必要ではないか」と決して断定しておらず、堀田龍也主査(東京学芸大学教職大学院教授)も言う通り「何かを決めた資料ではない」。「当面の間というのは、現行の指導要領の下でということ」と述べたのも、そう事務局から説明されているからに違いない。
「(改正法案を)国会で通す人たちは、めちゃ大変」(堀田主査)なのも、分かり切ったことだ。しかし閣法を出して通す肝心の当事者に、今のところ覚悟は見られない。
教科書が使用されるまでには、編集・検定・採択を含めた4年間のサイクルが必要になる。「仮定」では30年度使用に間に合わせるため、25~26年度に「必要な制度改正」を行うとしている。
指導要領の改訂諮問は、やっと昨年末に行われたばかりだ。確かに諮問理由には「新たな学びにふさわしい教科書の内容や分量、デジタル教科書等の在り方」が盛り込まれている。教科書と指導書に依存した授業やカリキュラムの在り方も見直すため、これから現場も巻き込んだ激論が交わされようとしている。
しかも教育課程部会長を務める奈須正裕委員が指摘したように、制度的な基準は緩めていく必要がある。その先でないと「新たな」教科書像は見えてこない。ましてや同時並行的に検定制度や無償制に踏み込める話だとは、とても思えない。教科書発行者にも、相当な負担をかけることになる。
だいたい次期指導要領に合わせてデジタル教科書も前に踏み出そうとするなら、両方とももっと早く検討する必要があった。改訂諮問がないと始まらないという建前は理解できなくもないが、泥縄式に急いでは禍根を残す。
そもそも旧態依然の教科書観を持つ政治家や論客は、依然として多かろう。デジタル教科書の推進に反対の論陣を張る新聞社は、主筆が死去してもキャンペーンを続けている。そんな情勢が読めていないとしたら、信じられない。まずは次期指導要領下でデジタル教科書による効果発揮をアピールしつつ、2サイクル目に向けて制度改正を検討すべきだ。
もちろん「仮定」の話だから、何がしかのショック療法を仕掛けた可能性もなくはない。ただ、近年の文科省にそんな度量が備わったとも思えない。
諮問に至る準備作業もそうだが、ここのところ文科省の施策推進は遅れと拙速が目に余る。今回の会合を受けて翌日、主要各紙は一斉に報じた。デジタル教科書に妙なメッセージを振りまくことにならなければいいが、杞憂だろうか。
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