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2025年1月 2日 (木)

指導要領の改訂審議スタート〈中〉 知識見直しの「地雷」を正々堂々と問え


 授業時間の削減には踏み込まなかった。これで教員の負担が減らせるのか―。先月25日の中教審諮問は一般に、そんな疑念を持って受け止められている。日刊紙報道だけ読めば、当然そうなる。

 教育関係者なら諮問理由自体を読めば、重要な一文に気付くだろう。「個別の知識の集積に止まらない概念としての習得や深い意味理解を促す」という部分だ。

 審議の「資料」である「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(いわゆる天笠検討会)論点整理の「個別的知識及び技能と概念的知識・方略の関係性をより整理すべき」だという指摘を思い起こそう。ここでは個別的知識・技能と概念的知識・方略を、明確に分けている。

 個別的知識は身に付けさえすれば自在に活用できる「転移可能」な知識になるとは限らず、概念的知識にまで高めることが不可欠だ。というより概念的知識こそ重視すべきであり、極論すれば個別的知識は「イグザンプル(例)」(奈須正裕・上智大学教授)にすぎなくなる。

 さらに続く「各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化」にも注目する必要がある。目標・内容を、概念を中心にして構造化するというのだから。

 しかも、それが「カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)」を解消し「余白」をも生み出す決定打になると言ったらどうだろう。さらには「教科書の内容や分量」の精選にも関連してこよう。そうなると授業の在り方は根本的に見直さざるを得なくなるし、児童生徒にとって「知識」丸覚えの勉強は通用しなくなる。

 もっとも概念は「見方・考え方」を敷衍(ふえん)したものと位置付けられるだろうから、現行指導要領とそう大きくは変わらないと受け止められるかもしれない。

 現行学習指導要領も「学力」から「資質・能力」へと、学力観の大きな転換を図ったはずだった。ただし三つがあまりにも似ていた、というより資質・能力の三つの柱を学力の3要素に「寄せた」ため、現場にはそういう印象が薄かった。というより2016年答申当時、文部科学省自身が「ゆとり教育批判」の再燃を恐れて「転換」という印象を与えないよう腐心した形跡さえあった。

 今回も、慎重な言い回しが目立つ。しかしイノベーション(革新)が求められる現在、今さら「イソップの言葉」でもあるまい。仕掛けた地雷が暴発して炎上する前に「生成AIが飛躍的に発展する状況の下」での知識の在り方を、正々堂々と世に問うべきだ。

 本社は『英語教育』(大修館書店)1月号の第1特集「次のカリキュラム(学習指導要領)に望むこと 先取りパブリック・コメント」への配信記事で「死んだ『知識』より、使える『概念』を」というキャッチフレーズを提案した。「死んだ知識より、生かせる概念を」の方がよかったかもしれない。

 三つの柱と「学習の基盤となる資質・能力」の関係も、見直すべきだ。もっと後者に移行して充実させ、前者をスリム化するべきだろう。要するに、前回改訂時の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)論点整理の考え方に立ち戻ることである。

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