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2025年1月 3日 (金)

指導要領の改訂審議スタート〈下〉 「道半ば」より「未完成」から

 学習指導要領の改訂諮問は「世界に冠たる我が国の初等中等教育は、質の高い教師の努力と熱意に支えられ、大きな成果を上げ続けています」とする一方で「全体としては、現行学習指導要領の理念や趣旨の浸透は道半ばです」との認識を示している。

 本当に「浸透」の問題なのか。むしろ前回改訂(現行指導要領)が「ゆとり教育批判」を恐れるあまり、中途半端になってしまったと捉えるべきだろう。

 典型が、資質・能力だ。前回改訂の準備作業を担った「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(いわゆる安彦検討会)論点整理は「主体性・自律性に関わる力」「対人関係能力」「課題解決力」「学びに向かう力」「情報活用能力」「グローバル化に対応する力」「持続可能な社会づくりに関わる実践力」などを重視するよう求め、教育目標・内容も▽教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの▽教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)▽教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの――で整理するよう求めた。

 しかし実際に打ち出された資質・能力の三つの柱は、学力の3要素に「寄せた」ものだった。そのため、学力観の「転換」にも気付かれにくかった。汎用的スキルは「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられるなど、安彦検討会の論点整理はつまみ食いされた格好だ。

 しかも「教育内容の削減は行わない」という方針を早々に確定し、内容の一つ一つを三つの柱に分けて位置付けたため指導要領は肥大化した。「初任者にも分かるように説明した」というが、むしろベテランでも扱いづらいものになったと反省すべきだろう。結果的にカリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)を助長し、多忙化の一因ともなったことも否めない。

 そもそも諮問で「分かりやすく、使いやすい学習指導要領の在り方」を検討するよう求めているということは、現行指導要領が分かりにくく、使いにくいことを認めているに等しい。それを「浸透」の問題として現場に転化するのは、「解像度」を上げるとした学校の働き方改革と同じで無責任のそしりを免れない。

 「一度の改訂では、やり切れないこともある」――。現行指導要領の評価を巡って、複数の教育課程関係者から聞いた言葉だ。しかし10年に一度でさえ長すぎるのに、20年かけては時代の進展に取り残される。何より不幸なのは、不完全なカリキュラムで教育を受けた子どもたちだ。改訂スパンが長いのなら、途中でも現場が自走できる教育課程の基準を模索すべきである。

 2025年は、昭和100年に当たる。国際的な混迷状況は、まさに「戦間期」の様相を呈している。技術の進展は「生成AIが飛躍的に発展する状況」さえ超えていくかもしれない。少なくとも現下の「デジタル化の負の側面」は、社会全体の危機ともなっている。

 文字通りVUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)の時代を生きる子どもたちに、どのような資質・能力を身に付けさせる必要があるのか。そのための授業や教育環境は、どうあるべきか。時に理想の教育の阻害要因ともなる受験態勢は、今のままでいいのか。そして、それを実現するための教育条件整備はどうあるべきか――。これらの課題を徹底検証した上で、最良の指導要領を完成するよう腐心して初めて「『令和の日本型学校教育』を持続可能な形で継承・発展させること」につながろう。

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