学校の働き方改革 既に泥沼化している
どうしても昭和100年・戦後80年の8月は、いま起こっている事象を過去の歴史と比較してしまう。19日に開かれた中教審「教師を取り巻く環境整備特別部会」第2回会合を聞いていて学校の働き方改革が、宣戦布告もなしに泥沼化した日中戦争からずるずると太平洋戦争に突入したのと同じように思えてきた。
この日の会合では、教員給与特別措置法(給特法)改正を受けた「服務監督教委が講ずべき措置に関する指針」の見直し案が示された。法改正により、教委が業務量管理・健康確保措置実施計画を定めるとともに「学校・教師が担う業務の3分類」も位置付けることになったからだ。
実施計画には、政府が時間外在校等時間を月平均30時間程度に削減することを目標にしていることから▽月の在校等時間が40時間以下の割合を100%にする▽1年間で月平均30時間程度になることを目指す――ことを求め、内容や実施方法は「地域の実情に応じて決める」としている。
とりわけ注目されるのが、3分類の見直しだ。分類の名称も▽基本的には学校以外が担うべき業務→学校以外が担うべき業務▽学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務→教師以外が積極的に参画すべき業務▽教師の業務だが、負担軽減が可能な業務→教師の業務だが負担軽減を促進すべき業務――に変更された。保護者や地域住民の積極的な参画や、事務職員の役割にも期待している。
会合では、3分類の改正については総論賛成が得られたものの細部では要望が相次ぎ、修正は部会長に一任された。また多くの委員が訴えたのが、財源確保の必要性だ。これに対して文部科学省事務局は「国がどこまで手取り足取り一律に言うかどうか悩ましい作業をしている」「間もなく概算要求があるので、いま取り組んでいる」などと、口調はともかく内容的には通り一遍の官僚答弁に終始した。
まず出発点から確認しておこう。働き方改革が課題となったのは、2017年6月に中教審諮問があってからである。それに先立って行われた16年度勤務実態調査では小学校教諭の3割、中学校教諭の6割が「過労死ライン」にあることも明らかになった。
19年1月の答申は、仕方のない面もあった。そもそも管理職が、教職員の勤務状況すら把握していなかったからだ。そんな状況では、財務省に予算要求のしようもない。そのため3分類を定めて業務削減に努めるとともに、その後のことは勤務実態調査を行って改善状況を見てから考えようというものだった。
当然、改善できなかった部分は新たな条件整備が必要になるということも含まれていたはずだ。しかし24年8月の答申は22年度調査に比べ「約3割減少」したことを「教育委員会や学校の尽力の成果」としながらも、取り組みに差がみられるとして「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階」から「解像度を上げて」支援と助言を行っていく段階に移行すべきだとして済ませた。
「あいまいな戦略目的」「短期決戦の戦略思考」「主観的で『帰納的』な戦略策定」「狭くて進化のない戦略オプション」「人的ネットワーク偏重の組織構造」……。日本軍を組織論的に研究した名著『失敗の本質』(1984年、現在は中公文庫)が数多く当てはまってしまうように思えるのは、気のせいだろうか。国から地方、学校現場に至るまで「学習を軽視した組織」になっているとしたら皮肉である。
これはもう、改革を一からやり直さないと無理ではないか。戦前に例えれば官・軍・民の若手による内閣総力戦研究所のシミュレーションで必敗が明らかになったのに、データより「空気」で開戦に突入し想定通りに展開した愚を繰り返すようなものである。挙げ句の果てには非科学的な「特攻」を経て「本土決戦」を竹やりで準備しろ、と言われても困る。
今こそ教職員定数を算定基礎から見直すなど、財源も含めた抜本的な条件整備の戦略を描くことが不可欠である。ここで立ち止まる勇気を持たないと、取り返しがつかなくなるかもしれない。既に現場には、あちこちに危機の兆しが噴出しているとみた方がいい。
↑ランキングに参加しています。奇特な方はクリックしていただけると、本社が喜びます

最近のコメント