次期指導要領の論点整理 「個別最適」上書きの違和感
中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)は25日、論点整理を正式決定した。総論として意義を唱えるものではない。むしろ前回改訂時(現行学習指導要領)に済ませておくべきだった「宿題」を10年後やっと行っている、とみている。今回の改訂論議は現行指導要領を「熟成」(石井英真・京都大学大学院准教授)させるものだというが、図らずも現行指導要領が「未成熟」だということを示していよう。
ただし、細かい点では異論がある。その最たるものが、総則の「個に応じた指導」を「個別最適な学び」に置き換えようとしていることだ。
文部科学省が「個別最適」という用語を公式に使ったのは2018年6月、林芳正・文部科学相の下に設置された懇談会の省内タスクフォース(特別作業班、TF)報告書「Society 5.0 に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」が初めてだった。しかも「公正に個別最適化された学び」という、微妙な言い回しをしていた。
というのも「個別最適」の出どころが、経済産業省の「『未来の教室』とEdTech研究会」だったからだ。文科省TF報告書の20日後に出た第1次提言では「個別最適化学習」という形で登場している。当時は「安倍一強」の下、政権の威を借りた経産官僚が幅を利かせていた。他省庁の政策に手を突っ込むことをいとわないのは、旧通産省以来のDNAである。
新型コロナウイルス禍を経て出された21年1月の中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」(令和答申)は、「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」だと整理した。それ以来、個別最適な学びと協働的な学びは授業改善の基調となっている。
ただ、学校現場には「現行指導要領は『主体的・対話的で深い学び』を目指すはずではなかったのか。別のものを提起するのか」という戸惑いもあったのも事実だ。そうした用語をどう整理するかが、改訂論議の一つの注目点だった。
論点整理は改訂論議を貫く三つの方向性の筆頭に「『主体的・対話的で深い学び』の実装」を掲げる一方、「『個に応じた指導』を発展的に置き換える形で」個別最適な学びに整理するよう提言した。前回改訂後に浮上した令和答申の基調を指導要領上も正式に位置付けるという意味では、無理がないと言えるかもしれない。とりわけ教育心理学や教育工学の研究者にとって「個別最適」という用語には、抵抗感がないようだ。
後に企特部会委員となる溝上慎一・桐蔭横浜大学教授は20年10月の教育課程部会ヒアリングで、個別最適化学習とは人工知能(AI)のアルゴリズム(処理手順)のことで「学習」は教育での「学び」ではないと指摘していた。要するに、「教育の言葉」ではない。
これまで教育現場は、長く「上から降ってくる」教育改革に悩まされ続けてきた。現場発の教育改革では、必ずしもなかったからだ。今回も「個に応じた指導」という現場にもなじんできた言葉を、教育界以外から出てきた「個別最適な学び」に上書きするということになる。なぜ「個に応じた学び」ではいけないのか。
企特部会主査の貞広斎子・千葉大学副学長は1月29日の教育課程部会で、今回の改訂論議では現場教員の「共感と納得」を意識したいと表明していた。企特部会にはほぼ毎回1000人以上のオンライン傍聴があり、論点整理素案が示された第12回(9月5日)に至っては1779人に及んだ。論点整理を了承した25日の同部会でも、貞広主査は「WGもぜひ現場の先生は視聴して(改訂論議に)間接的に参画してほしい」と呼び掛けている。
一方で、会合に興味があっても多忙で視聴できないのが現場実態である。文科省から文書で視聴を要請された都道府県・指定都市教委の指導主事から次々と降ってくる改訂関係の資料を、依然として受け身で眺める教員が多数派ではないか。しかもそれが現場にとってピンと来ない用語で語られては、そう簡単に「記号接地」(企特部会委員の今井むつみ・慶應義塾大学名誉教授)するとは思えない。
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