次期指導要領の論点整理 今後「太い骨」通せ
中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)第12回会合が5日に開催され、論点整理の素案を審議した。次回19日の会合で修正した論点整理案を固めた後、教育課程部会に報告して総則・評価特別部会や教科等ワーキンググループ(WG)につなげたい考えだ。
素案は前回改訂時(2015年8月)のような文章形式ではなくスライド形式を採っており、参考資料を除いても100ページを超える(前回53ページ)。過去の会合で示した「論点資料」13本のエッセンスを第2~7章にまとめ修正を加えるとともに、第1章「次期学習指導要領に向けた基本的な考え方」と第8章「今後のスケジュールや検討の在り方等」を新たに起こした。字が多いので、ポンチ絵(概念図)と言うより「ポンチ字」とでも呼ぶべきだろうか。
「11回にわたる検討の結果を暫定的に取りまとめ、今後の本特別部会における更なる検討の深化や各WG等での検討の前提として整理した」(目次)という限界はあろう。今回の改訂が、現行指導要領の実施状況を見ながら検討を加える形で議論を進めたという性格にも左右される。緻密な論議には頭が下がりつつ、物足りなさも感じる。分厚い量に比して「太い骨」が通っていないように見えるのだ。
第1章では「生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる、民主的で持続可能な社会の創り手を『みんな』で育むため」①「主体的・対話的で深い学び」の実装(Excellence)②多様性の包摂(Equity)③実現可能性の確保(Feasibility)――を三位一体で具現化するというコンセプトを打ち出している。それ自体、文句のつけようがない。しかし、どこか現状に対する危機感が薄くないだろうか。
過去2回の改訂を担当した合田哲雄・現文部科学省高等教育局長は前回改訂以降、事あるごとに「民主制の危機」を指摘していた。米国連邦議会襲撃やロシアのウクライナ侵攻に衝撃を受けたのが契機だったというが、その後も米大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏の専制的な振る舞いやイスラエルによるジェノサイド(大量殺害)など危機は深まるばかりだ。国内を見ても、SNSによるエコーチェンバー(似たような意見の反響)現象とフィルターバブル(外の情報から切り離された状態)の進行は著しい。
生成AI(人工知能)の無自覚な利用は思考力や判断力を損なわせ、フェイクニュース(偽情報)に踊らされた排外主義は「多様性の包摂」の障害ともなる。民主制の危機は「主体的・対話体で深い学び」の危機でもあることを、今こそ真剣に受け止めるべきだ。
危機感の薄さは、各論にも反映する。例えば「子供のより主体的な社会参画に関わる教育の改善」では特別活動の役割が強調されているが、情報活用能力に比べ軽すぎないか。むしろ想定外の危機にも自分で情報を集め、自分で考え判断し行動できる市民性教育こそ全面に打ち出すべきである。
そう考えると、「実現可能性の確保」も軽く思えてくる。今や子どもたちが考えなくなっているだけでなく、多くの教師が教育改革に対して判断停止状態に陥っている。論点整理の提案を実効性あるものにするには現場の裁量発揮が不可欠だが、その「体力」が現場に減退して久しい。そんな時に、標準はあくまで標準であり現場の裁量に任されるという原則論を振り回すばかりでは「オーナーシップ」(当事者意識)の持ちようもない。学校設置者や服務監督者の責務だという建前もあろうが、だからこそ教育条件を整備するのが国の役割ではないか。
もちろん論点整理はWG等につなげるのが役割だと考えれば、今後「審議まとめ」や答申までに記述を充実させればいいという考え方もできよう。しかし、今から時代の危機認識を強く持って議論すべきだ。一部委員の言うように今回の改訂が「画期的」だとしたら、なおさらである。混迷の2040年に備えた、骨太の改訂にすべきである。
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