【池上鐘音】指導要領と鉄砲
▼「世界一幸せな国」が舞台の映画にしては、物騒なタイトルだ。『お坊さまと鉄砲』(パオ・チョニン・ドルジ監督)は前ブータン国王が譲位する2006年、標高3100㍍のウラ村で民主化準備のため行われる模擬選挙を描いたフィクションだ▼冒頭、村の高僧が理由も告げず若い僧に銃2丁の入手を命じる。そこに、南北戦争時代のライフルがウラ村にあると聞きつけた米国のコレクターが都会の者に案内されてやって来た▼選挙を巡る村人や家族の対立に魔訶(まか)不思議な銃取り引き、担当役人と村人との珍妙なやり取り。すれ違いが重なる中、仏塔の下で模擬選と法要の日がやって来る▼法要の最中、役人は初めて見た米国人と民主主義について語りたがった。憲法修正2条で銃保持が保障された国だとも知らずに。人の好さそうなコレクター氏が生返事を返し続けていると、選挙結果と銃の使い道が明らかになる――▼前に見た『シビル・ウォー』(アレックス・ガーランド監督)には、フィクションの内戦にウクライナやガザなど現実の戦乱がすっぽりはまったような不気味さに戦慄(せんりつ)を覚えた。『お坊さま―』はあらゆる意味で、これと対極にある▼中教審では25日、学習指導要領の改訂が諮問された。「2040年代」の日本と世界は、どうなっているだろう。第4次教育振興基本計画で打ち出した「日本社会に根差したウェルビーイング」なるものは、果たして世界に受け入れられ広がっているのか▼ブータン憲法9条2項に掲げられているのが、有名な国民総幸福量 (GNH)である。ここでの幸福はHappinessだが、仏教国として精神面が重視される。翻ってわが憲法の同条項は、風前のともしびにある▼年が明ければ銃の国では、選挙中に銃撃されたトランプ前大統領が返り咲く。民主主義と平和主義が、いっそう揺らぐことは確かだろう。せめて「三毒」を克服する知恵を得られるような指導要領になるよう、映画の結末のように願ってやまない年の瀬である。
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